『高脂血症』

高脂血症とは?
 血液中にコレステロール、中性脂肪、リン脂質、遊離脂肪酸などの脂質が増えた状態を高脂血症といいます。一般的にはコレステロールまたは中性脂肪のどちらか、あるいは両者が増加した場合を高脂血症としています。いずれの脂質も身体にとっては必要な物質で、コレステロールは細胞膜やステロイドホルモン、胆汁酸の母体となり、また中性脂肪は身体の中に蓄えられエネルギー源として重要な働きをしています。しかし、これらの脂質が多くなると高脂血症となり治療が必要となります。
 高脂血症(脂質代謝異常症)は、放置すると血管壁に脂肪が付着し血管内を狭くしたり弱くして、動脈硬化を進行させ、冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症、無症候性心筋虚血などの心臓病)、脳血栓、脳梗塞などを引き起こしますので非常に危険な病気です。
 高脂血症は自覚症状がないため放置されがちで、皆様が今回受診されました定期健康診断で発見されることが多い病気です。特にこの病気は肉食など脂肪摂取量の多い欧米で多発していましたが、日本でも若年層を中心に食事の欧米化が進んだことと、生活環境の変化による運動不足やストレスなどにより、日本人でも増加してきています。

コレステロールと中性脂肪の検査の見方は?
 今回の検診で総コレステロール・HDLコレステロール・中性脂肪を測定いたしました。また、この3項目からLDLコレステロール計算値と動脈硬化指数を計算することができます。
LDLコレステロール計算値は
  総コレステロール HDLコレステロール −(中性脂肪 ÷5)
で求めます。
    注意:中性脂肪が300mg/dlを超えると正しい値が得られません。

動脈硬化指数は
  (総コレステロールHDLコレステロール)÷ HDLコレステロール
で求めます。    

例:総コレステロール 250mg/dl HDLコレステロール 50mg/dl
  中性脂肪 150mg/dl    の場合
LDLコレステロール=250−50−(150÷5)で170mg/dlとなります。
動脈硬化指数=(250−50)÷50で4.0となります。
計算ができましたら、それぞれの検査項目について説明します。
総コレステロールには主にLDLコレステロールとHDLコレステロールが含まれます。総コレステロールが220mg/dl以上を異常と判定しますが、LDLとHDLのコレステロールは全く違う働きがあり、それぞれの数値をみて動脈硬化の危険性を判定します。
LDLコレステロールは血管壁に脂肪を付着させるため悪玉コレステロールと呼ばれており、140mg/dl以上になると動脈硬化が進行すると言われています。
HDLコレステロールは血管壁に付着したコレステロールを肝臓に持ち帰り動脈硬化を防ぐ働きがあるので、善玉コレステロールと呼ばれ、40mg/dl未満になると動脈硬化の危険性が増加します。
動脈硬化指数は総コレステロールとHDLコレステロールのバランスをみるもので3.6以上を異常と判定します
中性脂肪はコレステロールほどではありませんが、動脈硬化の危険因子として重要です。また、中性脂肪はエネルギー源として身体に蓄えられますが、その貯蔵は無制限であるため肥満の原因にもなっています。この検査で注意しなくてはならないことは、検査の前に食事をすると食餌中の脂肪量と吸収の割合により、中性脂肪の数値が高くなります。一般に早朝空腹時に採血しますが、12〜16時間以上の空腹のあと採血するのがよいと言われています。基準値は50〜149で150を超えると動脈硬化の危険が高くなりますが、食事の有無により再検査が必要な場合があります。若い女性ではよく49以下の数値となりますが、低い数値はほとんど問題ありませんが、あまり低いと他の病気も考えられますので、一度かかりつけ医に相談してください。

異常がみられたら
 おそらく多くの方が異常と判定されているかと思います。
血液中の脂質は30才を超えた頃から上昇し、女性では閉経後更に上昇します。したがいまして異常がみられても、あまり心配せずかかりつけ医に相談してください。
 当センターの報告書は5年間の検診データを掲載していますので、自分の検査値すなわち身体の変化を知ることができます。今回は正常でも年々上昇していれば危険信号です。また、高脂血症など多くの病気は遺伝が関与していますので、家族に心筋梗塞など動脈硬化が原因の疾患にかかった人がいれば、特に注意してください。
 それでは脂質検査で異常がみられたらどうしたら良いのでしょうか?
まず「食生活の改善」と「生活習慣の改善」です。しかし、すでに動脈硬化が進行し心臓に負担がかかっている人は、急激な運動により心筋梗塞などを引き起こしますので、脂質を下げる薬が投与されます。
食生活の改善  
 もちろん食べ過ぎはよくありませんので腹8分目にして、間食を避け規則正しい食事をとってください。
「脂肪分の多い食べ物」…
卵(1日1個以内)、魚の卵(たらこ、すじこ)、生クリーム、肉類、チーズ、鶏の皮、バターなど動物性脂肪の多い食べ物
「おすすめの食べ物」 …
腸管でコレステロールの吸収を抑える食物繊維(野菜、きのこ、豆類)動脈硬化を防ぐ青背の魚(さば、さんま、いわし)料理に使う油は植物油にし、特にオリーブ油、ベニバナ油、コーン油などに含まれるリノール酸は血液中のコレステロールを抑えます。バターはマーガリンに変えましょう。適度のお酒は善玉コレステロールを増やすという報告がありますが、飲み過ぎると肝臓での中性脂肪の合成を増加させますので、ほどほどにしてください。
生活習慣の改善
適度な運動は善玉コレステロールを増やし、悪玉コレステロールを減らします。また、ストレスが加わるとホルモンが分泌され血液中の脂質が増えますので、運動などの趣味を充実させて気分転換を図るのが良いでしょう。また、車やエレベータなどに頼りすぎますが、できるだけ歩くように心がけましょう。喫煙は動脈硬化で弱った血管を収縮させるばかりではなく、善玉コレステロールを低下させますので、できれば禁煙するよう努力してください。
治療薬
HMG-CoA還元酵素阻害薬(以下スタンチンと略)、陰イオン交換樹脂製剤、プロブコール、フィブラート系薬剤、ニコチン酸系薬剤、イコサペント酸エチルなどがありますが、このうち最も繁用されているのはスタンチンです。
「スタンチンのコレステロール低下作用」
肝臓では、アセチルCoAからおおよそ5つのステップを踏んでコレステロールが生合成されます。このうち第1段階でのHMG-CoAからメバロン酸への合成が実際上コレステロールの合成を支配しており、HMG-CoA還元酵素により触媒されています。この酵素の働きは、肝細胞内のコレステロールの量により調整されていて、コレステロールが減少するとその活性が増強し、コレステロールを増加させます。同様に肝臓のLDL受容体(悪玉コレステロールを処理するところ)もコレステロール量により調節されていて、肝細胞内のコレステロールの減少によりその数が増加します。スタンチンはコレステロール合成の第1段階を阻害し、コレステロールを低下させLDL受容体数を増加させます。その結果、血中のLDL(悪玉)が肝臓に取り込まれて高コレステロール血症が改善されます。

今回の話題は健康診断で多く異常のみられる高脂血症を取り上げました。
次回は「貧血」について企画しています。