肝臓




肝 臓

≪B肝硬変と肝臓癌≫





  日本はいまや世界一の長寿国となりました。そんな中、困ったことに年をとるにつれて増える病気があります。その代

表例が悪性新生物(癌)です。2005年の日本人死亡原因の順位は悪性腫瘍が郡を抜いています。


  かつて日本医師会会長を務められた武見太郎先

生は『肝炎は20世紀の国民病』と言われましたが、今

では『肝臓癌は21世紀の国民病』になりかねない勢

いとなっています。

しかし、肝臓は前回までに述べたとおり<沈黙の臓

器>であり、そのほとんどが無症状のうちに進行して

しまいます。病気になっていても働きが1/3程度

までにならないとなかなか症状もでないのです。

身体の調子はなんともなくても定期的に検査す

ることが重要です。





〜肝硬変はどのようにして起こるのか?〜




 肝臓は再生力が強い臓器なので、その細胞が死んでしまっても新しい細胞が生まれて欠損部が補われて治ってしまい

ます。しかし、このような状態が長い間続くと、新しい細胞が再生してくる一方で正常な細胞との間に傷跡とも言える繊維

が増えてきます(繊維化)。これらにより肝細胞が島状に取り囲まれ、結節状(しこり)になった状態が肝硬変なのです。

 文字通り肝臓は硬くなり表面に大小の隆起が生じて,デコボコしてきます。こうなると自然にもとの正常な細胞構成に戻

ることは絶対にありません。

 また、肝臓内の血液の流れも悪くなり、肝臓の働きが低下してきます。





―― 一口メモ ――


 肝臓は重要な役割をしており、多量の血液が流れ込んできます。これらは全て門脈という血管によって肝臓を経由し、

大静脈という太い血管を通って心臓に戻ります。しかし、肝硬変があると門脈から肝臓に血液が流れる時に抵抗がかか

ります。肝臓内を通りきれない門脈血は食道部分の静脈をわき道として迂回し、直接大静脈に注ぐことになります。

しかし、このわき道を通る血液の量が増えてくるとこの迂回路にも圧力がかかり腫れ、破れてしまうと大出血を引き起こ

します(食道静脈瘤破裂)。肝硬変の患者が時に吐血するのはこの為です。





〜肝硬変の症状について〜




 肝硬変は慢性の肝臓病の終末像ともいえるのですが、その病状は、初期の段階のものから、末期のものまでいろいろ

あります。 また、その働きも正常な肝臓と変わらない働きを保っているものから、働きが極度に低下して、病床生活を余

儀なくされるものまで様々な程度のものまであります。



@ むくみ

A 腹水

B 黄疸

C 吐血、下血

D 手のひらが赤い

<原因>

肝臓内の血液の流れが悪くなる為に起こる。

E 皮膚が黒褐色になる

F 出血しやすい

G 女性様乳房の出現

H うとうとする、意味不明の行動・言動(肝性脳症)

<原因>

肝細胞の働きが悪くなる為に起こる。





〜肝炎から肝硬変、肝癌へ〜




 日本では肝硬変の原因としてウィルス性肝炎からの移行によるものが最も多く、アルコール性肝炎からの移行がそれ

に続きます。その為、この肝炎ウィルスに感染しているかどうかを知ることがまず重要です。また、肝臓の状態が正常の

ままなのか、慢性肝炎なのか、肝硬変に近いのかを診断することにより、検査や治療の方針が大きく異なります。

 先にも述べたとおり、肝硬変は肝臓病の終末期といわれ、肝癌のほとんども肝硬変から発生します。





〜予防が大切!〜




 肝細胞が繊維化し、肝硬変の状態になってしまうと、その細胞をもとの正常な細胞に戻す治療法は残念ながら

ありません。 よって現在の医療において完全に治療しようとするならば生体肝移植のみとなります。しかし、日本

ではドナーも少なくあまり行われていないのが現状です。また、残念ながら高齢者への適応は困難と言えます。

 通常の治療としては体の機能に支障のない時期は安静と食事の両方が基本となり、定期的に検査を受ける以

外、特別な治療は行われないのが一般的です。 肝機能が限界を超えて低下するといかにして症状の悪化や合

併症を防いで今までの状態へと戻していくかということが重要になります。

 肝硬変の特効薬はまだありませんが、治療法の進歩により肝硬変と診断されても長生きできる人が多くなって

います。 日ごろから肝臓をいたわり予防を心がけることが大切です。





 ≪生活のポイント≫

   @ 禁酒

   A 良質のたんぱく質をとる

   B ビタミン・ミネラルたっぷりの栄養バランスよい食事

   C 肥満防止

   D 規則正しい食事

   E 適度な運動

   F ストレス発散





〜肝臓癌について〜




  肝硬変の経過に最も大きな影響を及ぼすのは一口メモで述べた食道静脈瘤の破裂と肝臓癌の合併です。悪性新生

物(ガン)は全国死因の第1位を占めますが、その中でも肝臓癌の死亡数は年々増加傾向にあります。

  肝臓癌は自覚症状が少なく早期に発見することは難しい為、発見された患者の予後は悪いとされています。肝臓癌の

95%以上は肝炎ウィルスの持続感染者によるもので、その中でも80%以上がC型肝炎ウィルス感染者であるとされてい

ます。

 肝臓癌の発生をなくすためには肝臓癌の原因となる肝炎ウィルスの感染者を発見し、適切な肝炎コントロールや治療、

超音波検査による経過観察を継続することが重要です。





 ===肝臓癌の症状とは==

      @ 右わき腹、みぞおちの鈍い痛み、張った感じ

      A 食欲不振

      B 全身倦怠感

      C 腹部膨満感

      D 尿の濃染

      E 便通異常

      F 吐下血

      G 貧血




これらの症状はかなり進行した状態ででてきます。

小さな癌は無症状であることが多く、肝臓が『沈黙の臓器』と呼ばれるゆえんです。



  ===肝臓癌の検査===

  ○血液検査

    AST・ALT・γGTP etc. 〔肝臓の機能を見る一般的な検査〕

         肝臓が障害を受けると血中に出てくるため、高値となります。

    AFP(αフェトプロテイン)・PIVKA-U 〔肝臓の腫瘍マーカー〕

         肝臓癌で高値となりますが、肝炎・肝硬変でも陽性となることがあります。

    HBs抗原・HCV抗体 〔B型・C型肝炎ウィルス検査〕

  ○腹部超音波検査

      体外から超音波をあてて肝臓を見る検査です。全く痛みはなく、10分程度で済み気楽に受けら

    れます。被爆の危険もなく、誰でも受けられますが、皮下脂肪が特に厚い人などこの検査に向か

    ない人もいます。

  ○X線撮影

      上記した腹部超音波検査に向かない場合、あるいは異常が疑われる場合は腹部のX線CTや

    MRIでも検査することができます。これらも全く苦痛はありません。





  病気の早期発見に努める健康診断などでは主に血液検査や腹部超音波検査がなされることが多く、これらの検査は

当医師会保健医療センターが行っている健康診断でも受診することができます。また、お近くのかかりつけ医にもご相談

ください。

  肝炎⇒肝硬変⇒肝臓癌という道筋をたどらない為にも、予防に心がけること、そして自覚症状が現れる前の早期発見

が重要となります。