ヘリコバクターピロリについて



  胃の中に住むヘリコバコバクターピロリという菌をご存知でしょうか。

  従来、胃の中は胃酸により強い酸性になっているため、細菌が生息できない環境だと考えられていました。しかし、

1983年にこの細菌が発見されてから、現在ではピロリ菌と胃炎、十二指腸潰瘍、胃がんなどとの密接な関係があること

がわかってきました。

  今回は胃潰瘍の真犯人と思われているヘリコバクターピロリ菌についてお話します。






★どんな菌?




  とても可愛らしい名前をしていますが、ヘリコバクターというのは「らせん菌」という意味で、この菌の本体が細長い

らせん状をしていることから命名されました。また、ピロリというのは胃の出口側である「幽門部」を意味します。

  ピロリ菌が活動するのに最適なpHは6〜7で、pH4以下ではピロリ菌は生きられません。  

  胃の酸度はpH1〜2です。これは強い酸の濃度ですから、通常だとピロリ菌は生きられないことになります。では   

なぜ、ピロリ菌は胃の中でも生きられるのでしょうか。その秘密はピロリ菌の持つウレアーゼという酵素にあります。   

この酵素により胃の中の尿素という物質からアンモニアを作り出し胃酸を中和するのです。ピロリ菌は自分の周りに   

中性に近い環境を自ら作り出すことができるので、強酸の胃の中でも生きていられるのです。





★感染経路




  感染源は明らかとなっていませんが、飲み水や食べ物を介して経口感染するといわれています。また、感染者の口の

中の歯垢や唾液にも存在する場合があり、これも感染源のひとつかもしれません。

  感染源は世界的に見ると発展途上国が多く、先進国は少ない傾向にあります。   

  日本では50歳以上の人の感染率が高く、約8割の人が感染しています。ピロリ菌は幼少期に感染するといわれており   

50歳以上の方たちは戦後の衛生状態が悪い時代に生まれ育ったため、高い感染率を示していると考えられています。   

ほとんどが子供のときに感染しますが、あまり心配する必要はありません。感染してもすべての人が病気になるわけで   

はありません。生活環境や生活習慣の変化とともにこの菌を持つ人は減少しています。





★ピロリ菌と胃の病気


  

  潰瘍とは、胃液と接する、胃や十二指腸の壁の内側にできた傷で、深くえぐられたものをいいます。

  症状としては、みぞおちの痛み・不快感・吐き気・胸焼けなどです。出血している場合などには吐血したり、黒色の

便がでることがあります。

  今までは、胃潰瘍といえば喫煙やストレスが原因で、再発を繰り返すことが非常に多いとされてきました。

  ピロリ菌に感染すると、軽い胃炎や下痢をおこします。症状は軽く、少し胃がむかむかして軽い上腹部痛がある程度

ですが、数%の人に激痛を伴う胃粘膜病変をおこします。胃粘膜に接着したピロリ菌に対して炎症反応が発症すると考

えられています。ほとんどの場合はそのまま菌が排除されることなく胃の中に定着し、持続感染を起こします。そのため、   

胃潰瘍や十二指腸潰瘍、しいては胃がんのリスクが高くなるとの報告がされています。   

  胃の痛みが頻繁に起こる方は、一度検査をして、潰瘍とピロリ菌について調べてみてはいかがでしょうか。   

  

  これが全てではありません。十二分にご理解して頂き誤解なきようお役立てください。





★どのような検査をするの?



  ●内視鏡を使う検査

    内視鏡検査(胃カメラ)は、潰瘍や胃炎などの病気があるかを直接観察して調べると同時に

    胃粘膜を少し採取して組織を調べる方法です。最近の内視鏡検査は以前に比べファイバー   

    スコープも細くなり、かなり負担なく行える検査になっています。

  1.鏡検法

    組織を染色して顕微鏡で見る方法です。

  2.迅速ウレアーゼテスト

    ピロリ菌がもつウレアーゼという酵素の活性を利用して調べる方法です。尿素の入ったところへ

    ピロリ菌がいるとアンモニアを作るため、そのアンモニアでpHが変化するのをpH試験薬の色の   

    変化で判定します。   

  3.培養法

    採取した組織をピロリ菌の発育しやすい環境で培養して増殖を見るという方法です。培養には

    数日かかりますが、確実に診断でき、さらに分離した菌を保存解析したりすることもできる優れた   

    方法です。

  

  ●内視鏡を使わない検査   

    内視鏡を飲まずに済むというメリットが大きく開発が進んでいます。

  1.尿素呼気試験

    特殊な試薬(炭素を含んだ尿素の錠剤)を服用し、吐く息(呼気)を採取して二酸化炭素を調べる

    方法です。  

  2.血液検査

    血液を採血してピロリ菌に対する血清抗体を測定する方法です。最も簡単で気楽に検査ができま

    す。しかし、残念ながら除菌の判定ができないのがネックのようです。   

  3.尿中抗体検査・便中抗原検査

    その名の通り尿や便を調べるだけでピロリ菌の存在がわかるキットがあります。





★治療法(除菌療法)


   ピロリ菌が検出されたからといって必ず除菌を行うということではありません。除菌を行うかどうかは主治医の先生

 が判断されます。以前はピロリ菌に対する除菌は保険適応外だったのですが、H12年11月より胃・十二指腸潰瘍に限り   

 ピロリ菌が保険適応となりました。




 ☆★☆ 除菌のメリット ☆★☆

  潰瘍の再発が抑えられる

   胃薬が手放せない、または薬をやめるとすぐに再発するという人はたくさんいると思います。ピロリ

   菌がいるとわかった場合、除菌治療をすることで再発率をかなり低下させることができます。

  胃がん発生のリスクを抑えられる   

   ピロリ菌を除菌することで胃がんの発生が抑えられたという疫学的データが報告されています。





   治療には抗生剤2錠とプロトンポンプ阻害剤(制酸剤)という薬の計3剤を併用します。1週間、薬を飲むことによって   

 90%以上の除菌率が報告されています。しっかり除菌するとその後は潰瘍の薬を飲む必要がなくなり、再発もほとんど

 ありません。ただし、除菌の治療は中途半端でやめたりすると、ピロリ菌が薬に対して耐性を持ち、次に除菌しようと思   

 っても薬が効かなくなる恐れがありますので、必ず医師の指示通りに薬を飲むことが必要です。





一口メモ

  食品によるピロリ菌の抑制

  近年、食品によるピロリ菌の抑制効果が確認されています。

  ブロッコリーの新芽、ヨーグルト、ココア、梅肉エキス、緑茶(カテキン)、はちみつなどが報告されています。

  ただし、過剰摂取は身体の健康にとって良くありませんので、ご注意ください。





  ピロリ菌感染から胃がんになるのを防ぐためにも胃検診を定期的に受診されることをおすすめします。   

  ピロリ菌の検査もお気楽に受けることができますので、当センターまたは、主治医にご相談ください。