結核

 

 結核とは、「結核菌」という細菌が直接の原因となって起こる病気で、最初は炎症から始まります。

 結核は、かつては亡国病と言われるほどの高い罹患率を示していましたが、第二次世界大戦後は急速に低下し、1970年以降過去の病気とみなされるまでになりました。ところが、1997年から3年にわたり、罹患率、発生患者数ともに増加し、結核は「再興感染症」として注目されるようになりました。

 結核再興の要因は、
@若い世代で結核に対する免疫力を持たない人々が増えたこと、診断の遅れなどによる集団感染・院内感染の増加、
A重症化、重症発病例の増加、
B戦前・終戦直後に感染を受け、さらに加齢に伴う様々な健康問題などで結核発病が促される高齢者の発病の増加、
Cホームレスなど社会的に弱い立場にあり、健康管理の機会に恵まれない人たちの発病の増加、
D多剤耐性結核の出現 などがあげられます。



★肺結核


 結核菌が肺に入って増殖を始めると、人間の身体のほうに結核に対する免疫が出来上がります。こうなると、人体のほうが結核菌よりも強くなるので、できかかった病巣は治り、結核菌は抑え込まれてしまいます。結核菌が肺に侵入してから2〜3カ月までにこのようなことが起こります。

 しかし、抑え込まれた結核菌はそのまま殺されたというわけではなく、肺の中で冬眠状態に入るのです。そして、人体の側の免疫力が下がることがあれば、いつでもまた暴れ出します。

 感染直後に免疫が不十分な場合、初期の病巣がそのまま進行して発病することもあります。乳幼児や小児、免疫力が低い高齢者に多くみられます。(一次結核)

 成人の結核は、感染を受けてから1年以上、長い場合には何十年も経ってから、菌が人の弱みに乗じて暴れ出した結果起こる病気です。(二次結核)

 初期の炎症が進むと、やがて組織が死んで腐ったような状態になります。この状態が肺結核では長く続き、X線写真などに写る影の大半がこの病巣です。その後、死んだ組織がどろどろにとけて、気管支を通して肺の外に排出されると、そこは穴のあいた状態(空洞)になります。空洞の中は空気も十分にあり、肺からの栄養もあるので結核菌には絶好の住処となり、菌はどんどん増殖します。空洞をもった結核患者が感染源になりやすいのはこのためです。

 このような病巣から菌が肺の他の場所に飛び火したり、またリンパや血液の流れに乗って他の臓器にうつることもあり、肺全体、全身に広がっていきます。そして最後には肺の組織が破壊されて呼吸が困難になったり、他の臓器の機能が冒されるなどして、生命の危機を招くことになります。



★肺以外の結核


 結核の大部分は肺結核ですが、肺以外の臓器にも起こることがあり肺外結核といわれます。リンパ節が最も多く、その他にも骨や関節、腎臓、喉頭、腸、腹膜、また眼や耳、皮膚、生殖器にくることもあります。いちばん怖いのは脳にくる場合で、菌が血液の中に入って全身にばらまかれ(粟粒結核)、脳を包んでいる膜(髄膜)にたどり着き、そこに病巣をつくることによって結核性髄膜炎が起こります。

 今日では、粟粒結核は早く発見すればかなり助かりますが、髄膜炎は今でも1/3が死亡、治っても半数近くは脳に重い後遺症を残します。肺外結核は、結核患者全体の約7%にみられます。



★結核の感染


 私たちが普通に会話をしている時にも、肺の奥から目に見えない飛沫が吐き出されます。「ゴホン!」と1回咳をすると、普通の会話の5分間分にあたる大量の飛沫が放出されるといいます。たまたま肺に結核の病巣を持つ人であった場合には、この飛沫の中に結核菌が含まれていて、これが近くにいる人に吸い込まれると感染を起こします。食器などのものを介して結核がうつることは決してありません。

 空調換気の悪い狭い場所などは、結核菌の飛沫が長く滞留するため、感染源になる人が目の前にいなくても、知らないうちに感染してしまう事例もあります。  



★結核診断の流れ


結核診断の流れ



★結核になりやすい条件




★結核の症状


一般的症状として、発熱・倦怠感・食欲不振・体重げんしょうなど、呼吸器症状として咳・痰・血痰・胸痛などがあげられます。
初期症状は、単なる風邪の症状とよく似ています。症状が重症化してくると、肺出血による喀血なども起こり、放っておくと子に至る場合もあります。

風邪の症状と似ているため、結核かどうか自分で判断することは困難です。咳や痰が2週間以上続くようなら結核を疑って医療機関を受診してみてください。また、症状が出ないうちに検診で見つけることが一番望ましいので、年に一度は検診にて胸部X線写真を撮影し、早期発見・早期治療を心がけましょう。



★結核の治療


現在は多くの薬が開発され十分治る病気となりましたが、早期発見と早期治療が非常に大切であり、治療が遅れることにより呼吸機能障害などの後遺症が残る場合があります。

結核菌はしぶとい菌なので、ある程度の期間、薬で叩かないとぶり返します。以前は結核の治療に2〜3年以上かかることが普通でしたが、最近は6ヶ月で完了することができるようになりました。(短期化学療法)

また、初期治療にてしっかりと治療できなかった場合には、薬に耐性を持った結核菌が作られ再発を起こすこともあります。薬剤耐性結核が生まれる背景としては、十分な治療を受けられなかった場合、または薬剤の服用が不規則であったり途中で中断してしまったりする場合が挙げられます。発病した患者さんの治癒率は約50%といわれています。

耐性菌を作らないために、WHO(世界保健機関)の結核対策本部では「薬を患者に手渡さないで、毎日外来に通ってもらい、職員の目の前で飲ませる」方式を打ち出し、これをDOTS(Directly Observed Treatment,Short course)として、結核の標準的な治療方式としました。



★結核の予防


「予防に勝る治療なし」と言いますが、結核の予防は次の3つに分けて考えます。
@予防接種(予め感染する前に)
A化学予防(感染を受けてから)
B接触者健診(感染の恐れが大きいとき)

@予防接種(BCG接種)
BCG接種とは、結核菌の感染を受けていない人に、結核菌の仲間で毒性のごくごく弱い菌をあらかじめ刺して、結核に対する免疫をつけるワクチンです。日本では生後4〜6ヶ月までに1回接種を行うことを推奨しています。接種の効果は10〜15年と考えられています。ただし、成人への有効性は50%と根拠は認められていません。

A化学予防(予防内服)
次に述べる接触者検診で結核を感染したと特定された人は、その後1〜2年のうちに結核を発病するリスクがかなり大きくなります。また、それ以外の人でも結核発病のリスクが大きくなるような場合、あらかじめ結核の治療薬を飲んでもらって、結核菌をやっつけることが行われます。これを化学予防とか予防内服といいます。
予防内服を行わない時に比べて、行った時の発病の危険性は50〜80%小さくなると言われています。感染後間もない時期に行われた場合には、その効果は半永久的ともいわれています。

B接触者検診
誰かが結核を発病し、結核菌を出している場合には、その周囲の人に結核をうつしている恐れがあります。そのため、結核患者さんが発生すると、感染を受けた人や感染源になった人を見つけることが必要になります。このための調査や検査を「接触者検診」といい、保健所が行う重要な結核対策の仕事です。



結核はきちんと治療を行えば、怖い病気ではありません。
まずは年1回の検診を受け、早期発見・早期治療を心がけましょう。