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生活習慣病と循環器関連疾患について
健康アドバイス4
◆はじめに◆
前回の健康アドバイスでは生活習慣病と循環器疾患との関係をアウトライン的に述べましたが、今回は少し詳しく主だった循環器関連疾患について話を進めます。
【虚血性心臓病について】
心臓は絶え間無く拍動し、酸素を多く含んだ動脈血を全身に送っています。これにより生命が維持されているわけですが、この心臓自身も血管の循環機構により、酸素を多く含んだ動脈血を受け、心臓の筋肉細胞に酸素を取り込み、力(心収縮)を出して全身に血液を送る役目を果しています。心臓の周囲を取り巻くこの血管循環装置がすなわち冠状動脈と呼ばれているものであり、この冠動脈の動脈硬化が狭心症、心筋梗塞を起こす最大の原因と考えられています。
狭心症とは「冠硬化症を基盤にして一過性かつ可逆性の心筋虚血を繰り返す、胸痛を主症状とする疾患」とされています。動脈硬化により、冠状動脈の内径が狭くなり、結果血液の流れが悪くなります。そうしますと心筋細胞に必要とする血液量(酸素必要量)が不足する状態〈心筋の酸素需要に対して供給が不足する状態〉がおこり、狭心症が発症するという構図となります。
一方心筋梗塞とは需要と供給のアンバランスが極度に悪化し、供給が一時的にせよ需要に追いつかず供給がストップしてしまった状態=血流が途絶えた状態となり、心筋が破滅し(これを壊死という)本来の心筋機能を失う為に発症する疾患と言えます。狭心症の段階では未だ心筋細胞は壊死状態に至らず、又一時的虚血状態を呈しているというわけですので、あくまで胸痛症状発作は一時的であります。この胸痛とは左前胸部或いは前胸部まんなか当たりに突然締付けられる様な圧迫感とたとえられる痛みであり、時には喉頭部、下顎、左上腕部に放散する、稀には左小指に迄不快感を呈する感じの発作が出現します。おおよそ10分〜長くて20分で治まるのが通常です。
又狭心症には何らかの労作をして誘発される労作性狭心症と特に労作をしていなくても出現する安静時狭心症の2つのタイプに大きく分けられます。どちらも冠動脈血流減少が原因ですが、安静時狭心症の方は自然発生的に起こる冠動脈の攣縮(れんしゅく:いわゆるけいれん)によって誘発される為と考えられています。労作をしなくても狭心症状を来たす理由はここにあります。一般的にはこの冠動脈の痙攣は明け方に起こり易いとされています。
この発作を軽減させる特効薬として亜硝酸剤という薬剤がよく使われます。冠動脈を拡げて血流を増加させる作用を持っており、内服剤、舌下剤、貼付剤、スプレー用液剤、注射剤など色々の製品として使用されています。重要な事はこの狭心症は心筋梗塞へ至る前段階の病気として捉えておく必要があるという事です。従ってこの様な狭心症症状発現を見た場合、必ず医療機関を受診し適切な検査、加療を受ける必要があると強調しておきます。特に有効な検査方法は安静時心電図、及び24時間心電図(これをホルター心電図と呼んでおります)であり、かなりの診断能力があります。その他生活習慣病の存在有無、他の器質的心臓疾患の有無等を検索し治療が開始される事となります。
20分以上続く狭心症様胸痛、特効薬の亜硝酸剤を服用しても治まらない場合、頻回に発作が起こる、或いは胸痛程度が増強して来ている場合など、心筋梗塞の発症を考えなくてはなりません。血流不足により心筋細胞が破滅する段階に至ってしまったことを意味しています。心筋細胞の壊死により、本来の心臓機能は破綻を来たし、心停止、ショック、致死的不整脈発生など死に至らしめる一刻も争う重大な事態でありますので、直ちに専門病院への搬送が求められます。ただこの心筋梗塞は必ず狭心症を前以て持ち合わせているかというとそうではなく、突然心筋梗塞発作として起こる事が多くありますので、油断は出来ません。だからこそ普段から生活習慣病に対処し、動脈硬化にならない、又進行させない日常生活が重要です。
最近の心筋梗塞の治療は大変進歩しています。早い段階で冠動脈検査を行い、早期の内に詰まった冠動脈を拡げ、動脈壁にはりついている血の塊(血栓)を除去する事により、途絶えていた血流を再疎通させ、心筋細胞の壊死を食い止め、その範囲を少しでも狭めさせる技術が通常の治療方法と確立されるようになりました。又致死的不整脈、ショックその他心筋梗塞由来の合併症を上手に対処する治療方法も工夫されています。
【大動脈瘤、末梢動脈閉塞症】
これらも高血圧症、高脂血症、糖尿病など生活習慣病由来の動脈硬化を基盤として起し易い疾患です。大動脈瘤は生まれながらに動脈を構成している平滑筋の変性により生ずる場合もありますが、一般的には高い血圧にさらされ、動脈硬化によって動脈内面が傷つき、動脈壁の中に裂け目が出来て起こる解離性大動脈瘤、或いはコブ状に膨れ上がって内腔を造った真性動脈瘤とが知られています。特に急激に起こった解離、又動脈瘤の破裂は劇的な症状と共に救急を要するものです。普段からの医療機関でのチェックにより早期に動脈瘤の発見と、それに対処した管理を受ける事が是非とも大事な事です。
四肢末梢特に下肢動脈閉塞症は近年徐々に増加していると言われています。歩行時の疼痛、跛行、休息による疼痛の一時的改善が特徴です。更に悪化すれば安静時疼痛、皮膚潰瘍を形成するに至り、最終的には人工血管や自家静脈グラフトによるバイパス手術、或いは、断端切除と言う事になってしまいます。初期症状の頃より適切な治療を受け、積極的な対応をしておく心構えが大事です。
【脳血管障害】
やはり罹病率が高く、一番悩まされる疾患はこの脳血管障害と言えるのではないでしょうか。脳を循環する大脳動脈、椎骨動脈の動脈硬化による血流障害、血管破綻が最も大きな原因です。高血圧がそれ程十分にコントロールされなかった時代には、脳出血、太い血管の閉塞による脳血栓、脳梗塞を合併し、片麻痺、失語症他目に余るほどの悲惨な後遺症に苦悩された患者さんが多くみえました。しかし高血圧症、 他生活習慣病に関心が高まり、重症高血圧症等、危険因子の程度の軽減が図られるようになるにつれ、いわゆる大発作による脳血管障害は減少しつつあるかに思われます。
しかし、脳CT検査、脳MRI検査など、比較的簡単に脳の器質的病気の状態が把握出来る検査法が発達して来たお陰で、より積極的な治療をとる事により、大発作を回避出来ている事もありますが、大脳動脈の太い幹動脈障害よりも小、中脳動脈性動脈硬化による血流循環障害による発症が目に付くようになっています。いわゆる「多発性脳梗塞症」とか「ラクナ梗塞」と言った微小梗塞巣の発生が問題となっています。小股歩行、巧緻動作の拙劣、動作緩慢、脳血管性痴呆、嚥下障害等全般的な日常生活動作(これをADLと称されています)の悪化となって現れてきています。
これまでとは違い、突然発病する大発作ではなく、いつ何時起こったかハッキリしないままに徐々に、バラバラに運動障害、精神活動障害等が見られる様になります。これらに対処する一番の方策として生活習慣病の管理が最も重要な対策となります。中、小動脈の動脈硬化を如何に食い止めるか、高血圧、高脂血症、喫煙、肥満、高尿酸血症など動脈硬化の危険因子とされる病態を作らないこと、即ち生活習慣病の管理に尽きる事となります。
クモ膜下出血についてはやや趣が異なり、生来からある血管脆弱性、脳内動脈瘤の上に高血圧と言う付加的要素によって発症すると考えられています。習慣的慢性頭痛、局所性神経障害など、脳内動脈瘤の存在による症状が考えられる場合、積極的に精査を受け、早期に脳動脈瘤の発見に努める必要があります。
◆おわりに◆
最近内頚動脈血栓症が関心を集めています。一過性脳虚血発作という病気がこの内頚動脈血栓に由来していると思われています。一過性脳虚血発作は脳血管障害による諸症状が突然に出現し、24時間以内に消失するとされていますが、これが将来的に大発作への前触れとされ、この時点で予防的処置をしておく事が重要とされています。超音波検査、MRIないしMRA検査にて内頚動脈の検索が容易になりつつあり大いに期待されています。