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健康アドバイス37
平成20年、日本糖尿病学会では“ 糖尿病は予防や治療をすることができることと、またその根幹が、健康的な食生活(Diet)と適度な運動(More Exercise)である ”ことを「東京宣言2008」として宣言いたしました。
時期を同じくして2008年から特定健診・特定保健指導が始まり、メタボリック症候群という名は広く世間に知られるようになりましたが、糖尿病網膜症による失明者は年間3,000人以上(新規失明者の約18%)、糖尿病腎症による新規透析導入者は年間16,000人以上(新規透析導入の約44%)、糖尿病足病変による下肢切断者が年間3,000人以上(全切断患者の40〜45%)であると報告されており、糖尿病合併症で苦しむ患者の数は今なお減少していません。
過去1〜2ヶ月の血糖の平均値を反映する臨床検査値であるHbA1c。特定健診の項目にも含まれておりますが、ご自分のHbA1cをご存知ですか?平成25年5月、日本糖尿病学会は、合併症予防のために、多くの糖尿病患者さんにおける血糖管理目標値をHbA1c 7%未満とし、より良い血糖管理などを通じて糖尿病の合併症で悩む人々を減らすための努力を惜しまないことを宣言しました。
HbA1c 7.0未満に対応する血糖値の目安は、空腹時血糖値130mg/dl未満、食後2時間血糖値180mg/dl未満。
食事療法と運動療法が大切な事は勿論ですが、適切な薬物療法も併用しながら、目標値以下を目指す事が大切です。
糖尿病はきちんとした治療を行えばコントロールできる病気ですが、一旦血糖値が下がっても、治療を続けなければ血糖値はまた高くなってしまいます。健康な人と同じくらいに血糖値を保つことが、「糖尿病をコントロールする」事で、血糖コントロールが良好なら高血糖によって起こるさまざまな病気(糖尿病性網膜症による失明・糖尿病性腎症による透析・糖尿病足病変による下肢切断)を防ぐことができます。しかし、これら糖尿病性合併症は一旦発症してしまうと、その治療は進行を抑えることが中心となってしまいます。糖尿病は「治った」という事ではなく、治ったと同じ状態を保つためにコントロールしていく事が大切です。
○コントロールの基本は「食事療法」・「運動療法」・「薬物療法」
あなたに必要な1日のエネルギーは、自分の標準体重を知る事から始まります。
○標準体重(kg)=身長×身長×22
○適正エネルギー=標準体重×作業強度(25〜30Kcal)
身長170cmであまり身体を動かさない人なら、標準体重は64Kgで、1日に必要な適正エネルギーは約1600kcal になります。
「食事療法」の基本は、体重管理を目的とした「エネルギーコントロール」と、各種栄養素の補給を目的とした「栄養バランス」の二つが大切です。
食後の血糖上昇の9割は炭水化物(糖質)の量に影響されます。そこで、摂取する炭水化物の量を把握し調整することで食後の血糖管理に生かすという考えが「カーボカウント」です。
「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)では、炭水化物の1日摂取量は「総エネルギーのエネルギー比率で少なくとも50%以上であることが望ましい」とされております。「カーボカウント」とは、必要な炭水化物を、血糖コントロールを乱すことなく上手に摂取することであり、「炭水化物を制限する」という意味ではありません。昨今、ダイエットのために糖質のみを制限する「糖質制限食」が関心を集めておりますが、日本糖尿病学会は「現時点では糖尿病患者に糖質制限食は勧められない」とする見解を発表しております。「安全性などを担保する証拠が不足している」というのが主な理由で、極端な糖質制限は、全死亡率、心筋梗塞などのリスク上昇につながるという報告も見受けられ、注意が必要です。
「運動療法」には、血糖値を下げる効果と体重を減らす効果があります。運動時には血中のブドウ糖が筋肉で消費され、血糖値を抑えます。
また、運動の中・長期的効果としては、インスリン抵抗性(糖代謝におけるインスリンの作用不全)を改善する効果があります。さらには、動脈硬化を予防する善玉コレステロールを増やす働きもあり、様々な面で効果が期待出来ます。
糖尿病の原因は、過食や運動不足だけではなく、糖尿病になりやすい体質といった遺伝的要因も大きく影響します。食事と運動に心掛けるから薬は使用しなくても大丈夫というわけではありません。
あくまでも治療の原則は「食事療法」、「運動療法」、「薬物療法」が三本柱であり、3つすべてを行うことが、合併症を予防するための良好なコントロールには必要です。
「薬物療法」としては、インスリン製剤の他,最近の治療薬の進歩により内服薬としてインスリン抵抗性改善(ビグアナイド薬・チアゾリジン薬)、インスリン分泌促進(スルホニル尿素薬・グリニド系薬・DPP-4阻害薬)、食後高血糖改善(α-グルコシダーゼ阻害薬)といった、様々な作用の薬が使用できる様になっており、個々の病態に応じて種々併用する事が可能です。
平成26年4月には、腎臓で糖を再吸収する輸送体の働きを阻害し、尿中に余分な糖を排出することで血糖値を下げる働きがある「ナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT)2阻害薬」も発売されました。
また、最近では糖尿病と脂質異常症を合併している人に対し余分な脂肪を便中に排出する作用の抗肥満薬もあり、2型糖尿病で食事療法がうまくいかない人にとっての福音となるかも知れません。
国内では予備軍も含めて2,200万人もいるとされる糖尿病。 決して他人ごとではありません。今一度、健康診断の結果を見直して「くまモン」 を思い出して下さい。