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健康アドバイス55
近年、日本においても脂肪肝が急激に増加しています。健診受診者の25%を超えていると報告されています。脂肪肝は肝細胞に中性脂肪が沈着して肝障害をきたす病気で肥満の方やアルコールをたくさん飲まれる方にみられます。脂肪肝は一般的にアルコール性と非アルコール性に分類されています。すなわち、アルコール性脂肪肝と非アルコール性脂肪肝に分けることができます。後者は英語の頭文字をとってNAFLD(non-alcoholic fatty liver disease ナッフルディー)と呼ばれています。そのなかでも炎症が持続しているような状態を非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH ナッシュ)と呼びます。NASHの一部の方は将来、肝硬変まで進行することがあり、さらに肝がんや腹水・黄疸などの肝不全まで悪化する人もみえます。
日本人の慢性肝炎や肝硬変の多くの原因は肝炎ウイルスです。さらに肝がんの原因の6割以上がC型肝炎によります。C型肝炎の治療には以前はインターフェロンという注射が使われていましたが、現在は8週間から12週間の内服治療だけで100%近い患者さんが治癒することが出来るようになりました。インターフェロンとは違い副作用もほとんどありません。もし、まわりにC型肝炎でお悩みの人が見えましたらぜひ治療をお勧めください。たとえ肝硬変で腹水があっても治療できます。80歳以上の高齢者の方でも治療してお元気になられています。国の補助がありますので値段も安く治療が可能です。B型肝炎におきましても現在は優れた内服の治療薬があります。こちらも補助制度があります。B型肝炎の治療は長期にわたり必要ですが、こちらもC型肝炎と同様に薬剤の内服で肝硬変や肝がんの進行を抑制することが可能となります。B型肝炎の治療薬も副作用がほとんどありません。
B型、C型肝炎の治療薬の進歩によりこれらの肝炎ウイルスが原因の肝硬変や肝がんが減少しつつあります。特にC型肝硬変は毎年約7%の肝がん出現があり、年に3回から4回、定期的な腹部画像診断が必要です。しかし、治療薬によりC型肝炎ウイルスを除去できると、年間の発癌率はかなり軽減されることになります。したがって現在、肝がん減少に寄与している事項としては短期間で確実に効果が得られるC型肝炎の治療薬が最も寄与していると思われます。
肝炎治療の進歩によりC型肝炎による肝疾患が減少してきました。相対的に目立つようになったのが脂肪肝、NAFLD(非アルコール性脂肪肝)であります。あまりお酒を飲まない方(アルコール量20g/日以下)で多くはいわゆる生活習慣病、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症に合併します。NAFLDのなかに線維化を来し、慢性肝炎、肝硬変、さらには肝がんまで進展していくNASH(非アルコール性脂肪肝炎)が含まれています。病気が進行するNASHの早期診断はむずかしく、確実に診断するにはイトミミズくらいのわずかな肝臓の組織を局所麻酔下で採取する肝生検という検査が必要です。しかし、最近は腹部エコー検査で肝臓の硬さや血液検査で肝臓の線維化を判定する検査が普及しており、このような検査をすることで肝生検を施行せずにある程度診断することも可能となっています。
BC:B型+C型
HBV:B型肝炎ウイルス
HCV:C型肝炎ウイルス
NBNC:非B型非C型
NASHで肝硬変になっても、さらに肝がんが出現しても自覚症状がありません。多くの患者さんでは何らかの肝機能(ALT値、AST値)の異常を認めますが、進行と共に数値が低下してきますので腹部エコー検査などの画像検査を実施しないと診断されないことがあります。高齢で高度の肥満がある人や長く糖尿病を患っておられる人は肝機能検査と腹部エコー検査をお勧めします。NASH肝硬変では、約5年間で11%の人に肝がんが出現します。早期発見のために定期的な腹部画像検査が必要になります。
NASHの治療薬は一部の患者さんに糖尿病の薬やビタミンEが処方されて効果を認める場合もありますが、現時点で根本的な特効薬はありません。研究開発の途上にあります。できれば進行した肝硬変になるまでに食事療法や運動療法などの生活習慣の改善により、背景にある肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧を是正することが肝要であります。
脂肪肝は「たかが脂肪肝」で肥満やお酒飲みの所見として軽んじられて来ましたが、NASHという病気が明らかになり「されど脂肪肝」と危ない場合があることがわかってきました。肥満や糖尿病で肝機能異常を認める方はぜひ一度、腹部エコー検査を受けてみてください。