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健康アドバイス29
「今日のお昼ごはん、何食べた?」と聞かれて、考えてしまう事はよくある話で、仕事が忙しくて食べるのを忘れていたという方もみえるでしょう。でも、『お昼ごはん、食べたっけ?』と答えてみて下さい。きっと、言われた方は「??」と思うのではないでしょうか。これが、「加齢によるもの忘れ」と「認知症のもの忘れ」の違いなのです。加齢によるもの忘れは、出来ごとの一部を忘れますが、認知症の場合は出来ごとの全体を忘れてしまいます。お昼ごはんだけなら、まだそれほど支障はありませんが、次第にもの忘れは進行し、時間や場所も分からない、怒りっぽくなったり、意欲がなくなったり、外出しても帰ってこられなくなったり。この様になって、さあ困った! どこか預かってくれるところはないか? では、本人にとっても家族にとっても辛いものがあります。認知症になっても住み慣れた地域で生活を継続出来る社会を目指そうではありませんか!
アルツハイマー病の第1症例がアロイス・アルツハイマー(Alois Alzheimer)博士により発表されたのは1906年の事。当初は初老期発症の特殊な認知症として扱われていましたが、現在では認知症の6割強がアルツハイマー病によるものです。次に多いのが高血圧などの動脈硬化や脳卒中後遺症による血管性認知症、幻視を特徴とするレビー(Lewy)小体型認知症などがあります。また、治る認知症として、正常圧水頭症・慢性硬膜下血腫・甲状腺機能低下症・ビタミン欠乏症・脳内感染症・高血糖・低血糖・電解質異常症・薬物・アルコールなどによるものがあり、これらの治る病気を見落とさないためにも、認知症かなと思ったらなるべく早めに医療機関を受診する事が大切です。
認知症の症状には、記憶力障害に始まり、判断力の低下、話していることが理解できない、時間や場所がわからないといった『中核症状』と、それらによる不安感、うつ症状、幻覚(げんかく)・妄想(もうそう)といった心理症状に興奮(こうふん)、暴力(ぼうりょく)、徘徊(はいかい)、不穏(ふおん)といった行動症状を合わせた『周辺症状』(行動・心理症状(BPSD))があります。周辺症状が出現するようになれば、家族の負担は大きくなります。症状は、徐々に進んでいくのが特徴。いつのまにか発症し、年単位で徐々に記憶力・理解力・判断力が低下し日常生活に支障をきたすようになり、時間や場所、人物などの認識が困難になって妄想・徘徊が出現。暴言・暴行なども加わってきます。さらに高度になれば人格は完全に崩壊し、ほとんどの機能も失われて常時介護を要するようになり、嚥下障害(えんげしょうがい)や肺炎などを併発する事が多くなります。認知症の全経過には3〜4年から10数年と個人差がありますが、周辺症状出現による家族の負担を軽減するためにも、出来るだけ早期に発見し、進行を遅らせる事が大切です。
認知症治療の両輪は、薬物療法と、ケアなどの非薬物療法です。認知症を根本的に治す薬は現在のところありませんが、進行を遅らせる事は出来ます。出来る限り住み慣れた地域で家族と長く暮らせるようにする事が、家族の介護負担の軽減にもつながります。認知症の中核症状に対する薬は、わが国では1999年11月に発売され、長い間1種類のみでしたが、2011年になり、新しい薬が相次いで3剤発売されました。それぞれに特徴があり、認知症の進行に応じて個々に工夫出来る選択肢が増えてきました。認知症になったら治らないからとか、今のところ別に困っていないからと放置していると、直ぐに進行してしまいます。認知症は完治出来なくても。治療により進行を遅らせる事の出来る病気である事を再認識して頂き、おかしいかな? と思ったら、なるべく早く、かかりつけ医に相談される事をお勧めします。
薬物療法にもまして重要なのはその人らしさを生かしたケアなどの非薬物療法です。大切な事は、認知症と診断された人たちを特別扱いしない事。人間の行動には、必ず理由があります。怒ったり、興奮したりするのは、不安があるから。その不安の原因が分かれば、周辺症状を抑える事が可能です。その人の行動を理解し、受け入れてあげることが安心を与えるのです。行動を制限されて興奮した人を異常とみなして薬を与える事が治療ではありません。
認知症患者は、新しい事は覚えられなくても、昔の記憶は鮮明です。本人の見慣れたものや、使いなれたものを身近に置き、部屋の模様替えなどはなるべく避けるようにしたいものです。季節や曜日、時間の感覚を意識するため、カレンダーに予定を書き込んだり、時計を身につけて時刻を認識することで、生活リズムが保たれます。一人で家に閉じこもりになりがちですが、季節感や曜日の感覚を保ち、外出することで天候を肌で感じる事が大切。そのためには、デイサービスを利用するのが一番! 昔よく聴いた音楽を楽しんだり、他の参加者との会話やふれあいが良い刺激となり、家庭においても安心して生活できるようになってきます。体操やリハビリテーションにより体力低下・筋力低下も防げますし、他者との交流による社会生活を営むことが、認知症の進行予防に何よりも有用です。他人や親戚から、「デイサービスに行かせて家族が世話もせずに楽をしている」と思われるのが嫌だと思っていませんか? 以前は介護保険利用に対し、そのような偏見をもつ人も少なくありませんでしたが、今では、一人で部屋に閉じ込めておく方が、『デイサービスにも行かせてもらえずに可哀そう』と思われているのですよ。施設により雰囲気はまちまちです。認知症の方それぞれに合ったデイサービスを選んであげる事が大切で、ケアマネージャーの言うことにまかせっきりではなく、施設に見学に行くなどして大切な家族が満足できる施設を一緒に探してあげることが、家族間のコミュニケーションのためにも重要です。あくまでも認知症の方を支える主役は家族!それをサポートするのがデイサービスやショートステイなどの介護保険サービスなのですから。
医療・介護・生活支援が必要な方に対し、連携したネットワークをもって支援を行うことは重要な課題です。2011年4月より厚生労働省は、認知症対策等総合支援事業の一環として、市町村認知症施策総合推進事業を編成しました。市町村において医療機関・介護サービスや地域の支援機関をつなぐコーディネーターとしての役割を担う、認知症地域支援推進員を地域包括支援センターや市町村本庁に配置する事が原則とされました。認知症の人の診療に習熟し、かかりつけ医への助言その他支援を行い、専門医療機関や地域包括支援センター等との連携の推進役となる認知症サポート医も配置されます。また、普段かかりつけの主治医は、適切な認知症診療の知識・技術や認知症の人本人とその家族を支える知識と方法を習得するための研修(かかりつけ医認知症対応力向上研修)を受けるよう推進されております。
認知症は、もう決して珍しい病気ではありません。認知症の人々が住みやすい社会を構築するには、システムを作るだけでは十分ではありません。何より、認知症の人を取り巻く家族や隣近所、地域社会全体が自分達の問題として取り組んでいかなければならない事なのです。数年後に自分達が追い出される事のない社会を作ろうではありませんか!