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健康アドバイス26
ニュージーランドの移民局から、肥満を理由に就業ビザの発行を拒否されたイギリス人技術者とその妻。本人は減量に成功してニュージーランドで働き始めたが、その妻はイギリスに残ってダイエットに取り組んでいる。アメリカでは、肥満の程度によって罰金として毎月給料から天引きされる会社がある。イギリスのある生命保険会社では、保険に加入する際に肥満者は加入料が5割増しになる。
これらの話は、決して冗談ではなく、本当の話です。
食べることは個人の楽しみの中でも大きなウェイトを占めるため、肥満は個人の問題であるというのはもはや過去の話。2008年4月2日発行のニューズウィーク日本語版に、『肥満が犯罪になる日』として世界での肥満に対する厳しい取り組みが特集されました。
アメリカ・デューク大学の学内に勤務する約12,000人を対象とした研究(2007年)では、肥満者の医療費は非肥満者に比し7倍、怪我や病気による欠勤日数は非肥満者の13倍という結果が発表されており、個人の肥満が職場全体に影響を与えている事は明白です。
2007年7月発行のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンという医療専門誌に、『肥満は伝染する』という論文が掲載されました。友人が肥満になると、その後2〜4年以内に自分も肥満になるリスクが57%上昇する。友人の中でも特に親しい友人が肥満になれば、自分の肥満リスクは171%も上昇し、友人の友人のそのまた友人まで、肥満のリスクの影響を及ぼす可能性があるとの事です。
社会から肥満を撲滅させるためにも、肥満の傾向と対策に取り組んでみたいと思います。
肥満は、エネルギー摂取と消費のバランスの破綻により発症し、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回る事により生じます。従来は単なる過食や運動不足によると考えられてきましたが、肥満遺伝子や脂肪組織由来のホルモン(アディポサイトカイン)などが発見され、肥満の発症機序は遺伝因子と環境因子の複雑な相互作用に起因する事が解明されてきました。
単なる脂肪蓄積状態を表すのが「肥満」で、疾病発症の基盤になり治療が必要なのが「肥満症」。体格指数(BMI : body mass index)体重(kg)/[身長(m)]2が25以上になると、標準体重であるBMI 22に比べ、高血圧・高中性脂肪血症・低HDLコレステロール血症の有病率が2倍になるとの事で、BMI 25以上を肥満と判定しております。身長170cmの人なら標準体重は63.6kgで、体重72.2kg以上で肥満です。肥満者が陥りやすい病態は、高血圧や糖尿病だけではありません。
○循環器系:高血圧、心不全、脳血管障害 等 |
全身のあらゆる疾患に関与しており、肥満者が保険加入料を上げられる理由がお分かり頂けると思います。
食べる事の楽しみを止めるのは嫌だから運動します。運動はやりたくないから1食抜いて我慢します。ご飯を減らして果物を多く摂っています。ダイエットに良いといわれる健康食品を試しています。痩せるためには何を食べたら良いのですか?今の生活習慣を変えるつもりはないので良く効く薬をください。あなたもどれかに当てはまりませんか?ダイエットに‘あんちょこ’なし!
体脂肪1kgは7,000kcal。10kgのダイエットをするなら70,000kcalもの減が必要です。栄養療法と運動療法を併用する事により、摂取カロリーと消費カロリーとの差でエネルギ−を負のバランスにもっていく。運動によるエネルギー消費量はそれ程多くないため、プロのスポーツ選手やオリンピックを目指して一日中運動しているのでなければ、食事制限によるエネルギー摂取量の減少は不可欠です。また、食事療法のみでは、長期間の体重減少の維持は困難で、運動の継続による筋肉量の増加、脂肪蓄積抑制効果を併用する事が必要です。
○標準体重(kg)=[身長(m)]2 ×22
軽度(デスクワーク):25〜30 kcal/kg 中等度(立ち仕事が多い職業):30〜35 kcal/kg |
身長170cmの人は標準体重63.6kgで、デスクワークならば1,800kcal程度の1日必要エネルギー量になります。現在体重78kgなら、2,200kcal/日程度摂取していることになり、標準体重維持よりも1日400kcal分ずつ多く摂りすぎて、現在余分に100,000 kcalも蓄えている事になります。
体重を減少させる目標は、最初の3〜6か月で体重の5%、体重5kg,BMIで2程度の減少。次の3か月で体重2kg、BMI 1の割合で減少させて継続する。栄養素のバランスを保って摂取エネルギーを減少させる事が大切で、バナナ、豆腐、野菜等による単品ダイエットは微量元素やビタミン不足等を招きやすく、体蛋白量の減少やリバウンドを来たしやすいため注意が必要です。
体重過多による関節等への負担に注意が必要です。急激な運動は禁物で、高齢者や慢性疾患を有する方は、運動の強度を下げて安全に続けるように心掛けましょう。
「運動強度」とは、トレーニングなどの身体運動時の代謝量が、安静時の何倍に相当するのかを示す尺度で、METs(metabolic equivalents)で表されます。安静時の代謝量が1METsで、酸素消費量3.5mL/kg/分に相当し、最大酸素消費量は10〜12METsに相当します。運動強度に運動時間(hr)を乗じたのがエクササイズです。
低強度と中強度の運動の境界は3METs(普通の歩行・屋内掃除・子どもの世話等)で、生活習慣病予防のためには1日平均3エクササイズ(1週間に23エクササイズ)以上、更に1週間に4エクササイズ以上の活発な身体活動をすることが目標となります。
速歩や水中運動、太極拳などが4METsに相当します。
5METs:かなり速く歩く・ソフトボールや野球・子どもの遊び 等
6METs:ジョギングと歩行の組み合わせ・ジャズダンス 等
6.5METs:エアロビクス 等
7METs:ジョギング・サッカー・テニス 等
8METs:サイクリング・水泳(クロールでゆっくり)等
10METs:ランニング・柔道・空手・水泳(平泳ぎ)等
エネルギー消費量(kcal)=1.05×体重(kg)×METs×運動時間(hr)
体重78kgの人がジョギングと歩行を組み合わせて30分運動すれば、エネルギー消費量は245kcal。帰ってきて缶ビール500mlを飲み干せば、消費した245 kcalは、ほぼ無しになってしまいます。 |
食事療法と運動療法の両方が大切であることがお分かり頂けましたか?
極端な食事制限や急激な運動は、かえって健康を害する事にも繋がりかねません。ダイエットは継続出来る事が一番大切です。
『ダイエットに‘あんちょこ’なし!』を今一度肝に銘じ、自らのためだけでなく他人に肥満を伝染させる張本人にならない為にもメタボ健診の結果を真摯に受け止めてください。
「健康日本21」の報告書によれば、最高血圧を2mmHg減らすと循環器疾患による死亡者数が約21,000人、喫煙率が5%下がると約24,000人減少するとされております。
さて、肥満と喫煙、どちらの罪が重いと思われますか?