ホーム > 健康アドバイス34
健康アドバイス34
1981年に死亡原因の1位になった『がん』。現在では日本人の総死亡数の30%を占めるまでになっています。その内訳をみれば、以前は胃がんが長年1位を占めていましたが、現在では男女共に肺がんが1位を占めています。
検診により早期の胃がんが多く見つかり、胃がんで亡くなる方は確かに減少していますが、がんの中での胃がんに罹る率(罹患率)をみれば、依然として男性は1位、女性は乳がんに次いで2位となっており、胃がん自体は決して減っているわけではありません。
検診率を上げて早期発見・早期治療を目指すのはもちろん大切ですが、それだけでは胃がんの罹患率を減らす事は出来ません。がんになる前に予防するためには、胃がんの原因を知り、それらを取り除くことが大切です。
昔から、塩分の多い食品の摂取や野菜・果物の摂取不足が指摘されていましたが、それらは原因のほんの一部でしかありません。最近では、ヘリコバクター・ピロリという細菌による感染が主な原因であると言われており、これらを除去する事により、胃がんの発症を予防する事が出来るようになってきました。
1979年に胃炎患者の胃の粘膜内に発見された細菌で、らせん形をしている事から、その名がつけられました。ヘリコプターのヘリコと同じで、バクターは、バクテリアを意味します。ピロリとは、胃の出口である幽門を意味し、胃の出口にいるらせん形の細菌という意味です。
感染原因は、飲み水や食べ物を通じて口から入るのが主ですが、胃酸分泌が十分でない5歳以下の幼児期に感染しやすいと言われており、上下水道が十分整備されていなかった年代では、ほとんどの人が感染していると言われています。日本人に胃がんが多いのもこれが原因です。上下水道が完備した最近では、ピロリ菌に感染している親から子どもへの食べ物の口移しが問題視されています。
ピロリ菌に感染すると、胃の粘膜に炎症が起こります。炎症は、しだいに胃粘膜全体に及び、慢性胃炎となります。つまり、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎です。胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因にもなり、胃の粘膜が薄くなる、いわゆる萎縮性胃炎の状態です。さらに胃粘膜の萎縮が進むと一部に胃がんが発症してくる事が明らかになっています。
1994年、WHO(世界保健機構)は、ピロリ菌を「確実な発がん因子」と認定しました。これらを放置すれば、胃がんがいつ出現してもおかしくない状態です。
ピロリ菌感染者は国内で約3,500万人と言われており、50歳以上の7〜8割の人は感染していると言われています。
慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍だけでなく、胃がんの原因ともなるピロリ菌。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、ピロリ菌感染者すべてが除菌療法を受けることを強く勧めています。平成25年2月21日、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎における除菌療法が保険適応となりました。
ヘリコバクター・ピロリ感染が陽性である事と、内視鏡検査によりヘリコバクター・ピロリ感染胃炎である事が確認されれば、1週間薬を内服する事によりピロリ菌を除菌出来る可能性があります。これまで、せっかく検診を受けてピロリ菌が陽性と指摘されても、潰瘍がなければ保険治療が受けられず、皆も持っているからと放置されてみえる方が数多くみえると思います。
これらの人たちが保険診療にて除菌治療を受けられる様になった事で、今後の胃がん罹患率を低下させる事が出来るものと期待されます。
もともとピロリ菌に感染していなければ慢性胃炎はおこらず、胃粘膜の萎縮も認められず、胃がんになるリスクは限りなくゼロに近いと思われますが、ピロリ菌陽性で除菌した場合は、そのリスクはある程度下がるものの、胃粘膜の萎縮の程度によっては決して安心は出来ません。
これまでと同様、定期的な胃がん検診は必要です。この様な事から、胃の粘膜の萎縮があまり進んでいない若年者のピロリ菌感染者を見つけ出し、早期に除菌治療をしてあげる事が、今後の日本における胃がん撲滅のためには大切な事と思われます。
また、中年以降の人では、ピロリ菌検査のみを受けて陰性だったからといって安心してはいけません。胃の粘膜の萎縮が進行すれば、ピロリ菌でさえも生息できない程の荒廃状態となり、この状態が、最も胃がん発症のリスクが大きいのですから。
ピロリ菌の感染の有無と、胃の粘膜の萎縮が胃がんの発症に関与している事が明らかとなり、この2つを組み合わせる事で、胃がんのリスクを判定できる様になってきました。ピロリ菌感染の有無(血清ピロリ菌IgG抗体)と胃粘膜萎縮の程度(血清ペプシノーゲン値)を測定し判定します。
(日本胃がん予知・診断・治療研究機構より)
自覚症状がなければ胃の内視鏡検査は躊躇(ちゅうちょ)してしまいがちですが、この胃がんリスク検診(ABC検診)は、血液検査で分かります。人間ドックを受けられる際は、ぜひABC検診も受けるようにして下さい。