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健康アドバイス19
医学的に、WHO(世界保健機関)による閉経の定義は「閉経とは卵巣における卵胞の消失による永久的な月経の停止」と定められており、要するに、卵巣の機能が衰え始め、最終的に月経(生理)が止まってしまうということです。更年期に正確な定義はありませんが、その生理が止まってしまう時期の、閉経前・閉経・閉経後が更年期であり、個人差がありますが、40歳ぐらいから60歳ぐらいのことをいいます。
閉経前後のこの期間は、卵巣の働きが悪くなるにつれて女性ホルモン(エストロゲンといいます)が減っていき、さまざまな精神、身体症状が現れることがあり、これらを更年期障害と言います。これがあれば更年期障害だ、ということではなく、人によりいろいろな不定愁訴(ふていしゅうそ)があることが多いのが特徴です。症状によっては日常生活に支障をもたらして治療を必要とするものがあり、高脂血症や血管障害、骨粗しょう症などの症状も関連するといわれています。
生理の異常(不正出血など)、顔のほてり(ホットフラッシュともいいます)、のぼせ、異常な汗をかく、動悸、めまいなどの血管運動神経症状、ゆううつ、眠れない、頭重感などの精神神経症状、性交時痛症、尿失禁、骨粗しょう症や高血圧などを伴うこともあります。
体の中には自律神経といって、体の安定を保つために、脈拍や血圧、体温、発汗などをコントロールする働きがあります。更年期になって卵巣の働きが衰えるためにこの自律神経が悪くなり、不定愁訴が出現し、いわゆる自律神経失調症といわれる状態となります。更年期障害は、このように卵巣の機能が悪くなるために起きる自律神経失調症の一部であるとも言えます。もちろん、自律神経失調症は他の原因でおこることも多いため、不定愁訴があるから更年期障害だとはいえません。
更年期は、頭痛、頭重感、めまい、動悸(どうき)、息苦しさ、手足のふるえ、耳鳴りなどのいろいろな自律神経失調症状と共に、感情に不安定さがよく見られます。女性であること、年齢的に50歳前後であることなどから、一般の方々のみならず、いわゆる家庭医の先生もそういう症状があれば更年期障害として扱われることがよくあります。ただ、産婦人科の立場から申し上げますと、例えば、動悸があるとか、息苦しいとかあれば、やはり、まず循環器(心臓とかの)内科で、心臓、肺などを診て頂いたほうがいいと思いますし、めまいとか耳鳴りなどもその専門の先生に、まず診てもらったほうがいいと思います。それと、精神神経症状の強い方など、うつ病などとの見極めが必要な方が非常に多く、本人が自分は更年期であるときめつけて来院され、精神疾患の可能性があるため専門の先生に診てもらうようお話しても、拒否される方があり、困ってしまうこともあります。
それと、もうひとつよくあることなのですが、例えば、30代の方が調子悪くて、かかりつけ医にかかったところ更年期障害といわれたといって外来にみえる方があります。更年期障害は、ある程度の年齢になるとおこる事なのですが、30歳台でおきることはまずありませんし、その症状は、卵巣機能不全などのホルモン異常によりおこっている事なので、将来のことも考えて、場合によっては治療が必要になってきます。
さあ、ここであなたも更年期のチェックをしてみましょう
あてはまるところの点数を右に書き、合計してください。(印刷用PDFデータのダウンロードはこちら)
更 年 期 テ ス ト
症 状 | 強 | 中 | 弱 | なし | 点数 |
顔がほてる |
10 | 6 | 3 | 0 | |
汗をかきやすい |
10 | 6 | 3 | 0 | |
腰や手足が冷えやすい |
14 | 9 | 5 | 0 | |
息切れ、動悸がする |
12 | 8 | 4 | 0 | |
寝つきが悪い、眠りが浅い |
14 | 9 | 5 | 0 | |
怒りやすく、イライラする |
12 | 8 | 4 | 0 | |
くよくよしたり、憂うつになる | 7 | 5 | 3 | 0 | |
頭痛、めまい、吐き気がよくある | 7 | 5 | 3 | 0 | |
疲れやすい | 7 | 4 | 2 | 0 | |
肩こり、腰痛、手足の痛みがある | 7 | 5 | 3 | 0 | |
合 計 点 | |||||
0-25点:特に問題ありません | |||||
26-50点:食事、運動に注意 | |||||
51-100点:一度婦人科に診てもらってください |
更年期障害は女性ホルモン(エストロゲン)が減っていくことにより起こり、そしてこのエストロゲンは、骨を造るのに非常に大事な働きをしております。つまり、このエストロゲンが減ることにより、骨が造られなくなっていき、これのひどい状態が、一度は耳にされたことがあるとは思いますが、骨粗しょう症という病気です。女性に多く、50歳以上の女性の頻度は24%といわれており、80歳を超えると、約半数が骨粗しょう症であるといわれてます。この骨粗しょう症は、骨折の大きな危険因子のひとつであり、特に、大たい骨けい部骨折は、約3分の1が寝たきりになり、10%の方が1年以内に亡くなってしまうといわれてます。
閉経すると、高コレステロール血症が増え、内臓脂肪型の肥満が増えるといわれています。最近話題のメタボリックシンドロームは、内臓脂肪型肥満の原因といわれており、このメタボの関する病気、例えば糖尿病や、心臓血管系の病気になりやすくなるといえます。
ある程度の年齢になると、必ずホルモンは減っていきますので、更年期が訪れますが、人により症状はまちまちで、なんともない人もいれば生活に支障をきたすほどひどい方も見えます。特に症状がひどくなければ、放っておいてもかまいませんが、気になるようであれば治療も必要となってきます。更年期障害の治療として主なものに、ホルモン補充療法(ホルモンほじゅうりょうほう、HRTといいます)、漢方薬がありますが、その他、頭痛には鎮痛薬、骨粗しょう症には骨を増やす薬、といった対症療法、心理的要因が大きい方に対しては、心理療法の併用がいいといわれています。ここでは、HRTと漢方薬についてお話したいと思います。
更年期障害は、女性ホルモン(エストロゲン)が減ることによっておこることですので、この減ったエストロゲンを補充するというのを目的としています。副作用の関係で、エストロゲン単独の場合と、プロゲステロンというものを同時に使う方法とあります。この治療法は更年期の治療とともに、将来の骨粗しょう症の予防、血管系の病気の予防など、女性の老後のQOL(生活の質)が向上すると言われた時期もありましたが、アメリカでこの治療をした人としない人とを比べたところ、観察の途中で、HRT(ホルモン補充療法)をしている人に明らかに乳がんが多くなるという結果が出たため、このHRTは中止となりました。この結果は衝撃的で、治療中の方はかなり戸惑われたかと思います。その後、この海外での結果は、日本人にはそのままあてはまらないとか、薬の量の変更で乳がんにかかる率は減るなど、いろいろな意見があるため、すべてのHRTが否定されたというわけではありません。ただ、例えば、骨粗しょう症、心疾患の予防の目的にはHRTではなく、ほかの方法を優先させるべきですし、更年期障害の血管運動神経症状(発汗、動悸、などの症状)の治療には効果があることが明らかなため、必要な時は、乳がんの検査等をしながら、HRTをおこなうことが大切だと思います。
漢方療法は、漢方的診断で、「証」にそって治療を行う方法が一般的です。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遥散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)の3剤が主に用いられます。漢方薬なんて効かないといわれる方もみえますが、その証にぴったり合う薬が処方されれば、かなり症状は軽減されます。肝機能障害などの副作用や飲みにくいということもありますが、比較的長期の内服も可能です。効かなければ薬を変えてみたり、漢方専門医に診てもらった方がいいかもしれません。
※「証」とは・・・漢方では、ひとりひとりにあった診察や処方をおこない、そのために用いられるものさしを「証」といいます。例えば、代表的なものとして実証と虚証(その間の中間証)があり、実証はがっちりした体格で顔色がよく、虚証は体格が貧弱で顔色も悪いというふうに分けます。
以上、更年期について簡単に述べてみましたが、いかがだったでしょうか。特に症状のある方は、一度更年期外来に足を運んでください。日常生活が変わるかもしれません。