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健康アドバイス45
「鼠径」とは足の付け根部分のことで、「ヘルニア」は体の壁が弱くなって、体の中のものが飛び出してくる病気で、鼠径ヘルニアは俗にいう「脱腸」のことです。鼠径ヘルニアは実はたいへん多い病気で、日本全国で年間15万件以上の手術が行われています。鼠径ヘルニアは乳幼児から高齢者まで幅広く起こりうる病気で、小児の場合は先天的なものですが、成人の場合は加齢に伴って組織が弱くなることが主な原因です。
鼠径ヘルニアになると、立った時やおなかに力をいれたときに、足のつけ根のところに柔らかい膨らみが出てきます。この膨らみは、最初は寝たり手で押さえると引っ込みますが、手術をせずに放置しておくと、膨らみが大きくなったり、違和感や痛みが出て、次第に生活に支障が出てきます。また手で押すことで元の位置に戻っていた腸が、飛び出したまま戻らなくなる嵌頓(かんとん)という状態になると強い痛みがでます。嵌頓したまま放置すると、腸の組織が死んでしまう壊死(えし)という状態になって、命に関わる場合もあります。嵌頓したあと早期であれば医師が整復し緊急手術を避けることができますが、壊死になった可能性がある場合には緊急手術が必要になります。このような状態になる前に手術をしておくのが賢明ですので、かかりつけ医に相談してください。
鼠径ヘルニアは薬や脱腸帯(ヘルニアバンド)など手術以外の治療法で治ることはなく、弱くなった体の壁を補強する手術が必要になります。手術方法には鼠径部切開法と腹腔鏡手術がありますが、麻酔と手術方法の進歩に伴って、最近は腹腔鏡手術の割合が増加しています。
鼠径部切開法〈図1〉は7〜8cmの傷を加えて、ヘルニアの穴にメッシュプラグという人工物(人体への安全性が確認されているポリプロピレンなど)を入れて、腸が出てこないように栓をする手術が主流です。
腹腔鏡手術〈図2〉は、おへそに5mm程度の小さな傷を加えて、そこから腹腔鏡というカメラをおなかの中に入れ、その両脇に手術器具を入れるための5mm程度の傷を2か所追加して、テレビモニターに映して手術を行います(図2左上と中央)。
腹腔鏡で観察することで、内側から壁にできた穴、すなわちヘルニア部分の大きさや詳しい場所などを正確に確認し診断できます〈図2左下〉。ヘルニアの穴の周りの腹膜をはがして〈図2右上〉、柔らかい網目のシート状のメッシュを使用して補強します〈図2右下〉。鼠径部切開法よりも診断面で優れているのと、傷が小さいので手術後の痛みが少なく、早期退院が可能で美容的にもメリットがあります。
腹腔鏡手術は全身麻酔での手術になります。目が覚めると手術が終わっている状態です。手術時間は1時間から1時間半で、麻酔を合わせて手術室にいる時間は2〜3時間になります。
全身麻酔が不可能な場合や今までに下腹部の手術を受けた方などでは、腹腔鏡手術ができませんので、鼠径部切開法での手術となります。この場合は意識があるままの腰椎麻酔(下半身麻酔)や局所麻酔での手術となります。
どちらの手術も翌日には歩いたり、水分の摂取や食事が可能となります。傷の痛みが少ない腹腔鏡手術の方が早めに退院でき、通常は手術翌日か翌々日に退院可能です。手術後にもともと膨らんでいたヘルニアの部分に一時的に組織液がたまって再び膨れることがありますが、時間がたてば、へこんでいきます。通常は時間がたてばとけてしまう糸で皮膚を縫いますので、抜糸は必要ありません。