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健康アドバイス15
みなさんは耳鼻咽喉科といいますと、どのようなイメージをお持ちでしょうか。人によってはまったく馴染みがなく、「何となく恐い」という印象さえお持ちの方もいれば、ちょっと風邪気味になって鼻水がでたり、のどがイガイガしはじめた時、「吸入などの処置をしてもらうだけで楽になる、気分がいい」とおっしゃって来院される方もたくさんいると思います。
今回は耳鼻科領域の病気のなかでも冬場に多い、耳や鼻の身近な病気についてお話したいと思います。
耳の病気のなかで身近なもののひとつとして「中耳炎」があります。中耳炎とは、鼓膜の奥の中耳腔という空洞にウイルスや細菌が入り込み炎症を起こす病気です。ではどのようにして、鼓膜の奥(中耳腔)にウイルスや細菌が入り込むのでしょうか。
耳は耳管という管で鼻の奥やのどとつながっています。風邪をひいて鼻やのどに炎症を起こすと、ウイルスや細菌がこの耳管を通って中耳腔に入り込み中耳炎が起こります。中耳炎は大人でも子供でも起こりますが、子供の場合は、耳管が大人より短く、鼻から耳に向かって水平に近いために鼻やのどの細菌が中耳腔に入りやすく、どちらかというと子供に多い病気です。
中耳炎には大きく分けて、急性中耳炎・滲出性中耳炎・慢性中耳炎の3つがあります。
■急性中耳炎
ほとんどの場合は、風邪に合併しておこります。先ほども述べましたように鼻やのどについたウイルスや細菌が耳管を通って中耳腔に入り、急性炎症を起こすため突然に、耳の痛み、発熱、耳漏(耳だれ)などの症状がでます。痛みを表現できないような小さなお子様の場合、耳だれが出ればお母さんも気付きますが、そうでない場合は不機嫌、夜泣き、しきりに耳に手を持っていくようなしぐさをしますので、風邪をひいている時にこのようなことがあれば急性中耳炎になっていることがありますので注意が必要です。
治療としましては、軽症の場合は治療をしなくても治ることがありますが、一般的には抗生物質や炎症を抑える薬の内服や点耳(耳の中に液体の薬を目薬のように入れる治療)、耳だれが多い場合は滅菌生理食塩水での耳洗浄を行います。また、痛みが強い重症の中耳炎で中耳腔に膿がたまっている時は、鼓膜を切開して膿を出す場合もあります。(鼓膜は数日で再生します。)
最近では抗生剤が効きにくい細菌(多剤耐性菌)も増えてきていますので、完全に治るまでしっかり治療を受けることが大切です。
■滲出性(しんしゅつせい)中耳炎
鼓膜の奥の中耳腔に滲出液が貯留する病気です。プールやお風呂で耳の穴から水が入り聞こえが悪くなることがありますが、これは鼓膜の外側の外耳道とよばれる部分に水がたまったことによります。ですから、水が耳の穴から外に流れ出てしまえば聞こえはすぐによくなります。滲出性中耳炎の滲出液は中耳の粘膜を通して中耳腔に貯留したもので、滲出性中耳炎にかかる前は、ほとんどの場合風邪か急性中耳炎にかかっています。これらの炎症により中耳腔に滲出液が貯留しますが、痛みや熱を伴った激しい炎症が治まった後に耳管の働きが悪くなり、中耳腔に貯まった滲出液を排泄できなくなるために滲出性中耳炎になります。ですから急性中耳炎のあと耳の痛みが治まったあとに滲出性中耳炎になることがよくあります。
滲出性中耳炎の症状は、痛みはほとんどなく、難聴です。よく患者さんが訴えるのは「耳がつまったような感じ」とか「一枚膜が張ったような感じ」という表現が多いようです。しかし、子供の場合は急性中耳炎のように痛みがないために何も訴えないことも多く、そのため発見が遅くなってしまいます。早く発見するためにはお母さんなど家族が、子供さんの日常生活をよく観察することが大切で、「後ろから呼びかけても返事をしない」、「聞き返しが多い」、「テレビのボリュームをおおきくする、あるいはテレビに近づく」、「大きな声でしゃべる」このような症状があてはまれば、専門医を受診されることをお勧めします。子供の滲出性中耳炎は長い間気付かずにほっておくと、音を通じて多くの物事を吸収し最も伸び盛りの子供さんの知的な成長が遅れるばかりでなく、友達と言葉を通じてのコミュニケーションがとれないため、内向的で積極性・協調性のない、落ち着きがない性格形成につながります。
滲出性中耳炎の治療には、マクロライドという抗生物質と滲出液の排泄を促す薬の内服療法や鼓膜を注射針で穿刺したり、あるいは鼓膜を切開して滲出液の吸引除去を行う方法があります。内服療法では治るまでに時間がかかることもあり、2〜3ヶ月要することもあります。鼓膜を切開して滲出液を除去すれば、即座に聞こえはよくなります。切開した鼓膜は一週間程度で自然に閉鎖しますが、耳管の働きが悪いと閉鎖後すぐに滲出液が再度貯留することもあり、何回も反復して貯留するようであれば鼓膜を切開したあとに、切開部に換気チューブを入れて中耳腔の換気を良くする方法があります。入れたチューブは3ヶ月から6ヶ月ほどで自然に押し出され鼓膜の切開部も閉鎖します。どの治療を行うかは、患者さんの年齢や中耳炎の状態によって選択されるべきことですので、専門医の先生と相談しそれぞれの治療法のメリット、デメリットをよく理解したうえで決めればよいと思います。また、鼻の奥の扁桃腺の肥大(アデノイド増殖症)や、副鼻腔炎(蓄膿症)、アレルギー性鼻炎などがあると滲出性中耳炎になりやすいですので、これらの治療もいっしょに行うことが大切です 。
■慢性中耳炎
急性中耳炎の反復や不完全な治り方をしたことによって、鼓膜に穴があいて閉じなくなってしまった状態で、慢性化したものです。慢性中耳炎の患者さんはほとんどが成人です。鼓膜に穴があいているため中耳腔に細菌が入り易く、すぐに感染してしまいます。例えばプールやお風呂などで耳の外から水が入った場合、正常なら鼓膜があるので中耳腔に水が入ることはありませんが、慢性中耳炎では、鼓膜に穴があいているため外から入った水が中耳腔の中に入り感染を起こします。このように感染するたびに耳だれが出ますので、慢性中耳炎の症状としては反復する耳だれと、繰り返し炎症を起こすことによって中耳の奥の内耳にまで障害を及ぼし難聴をきたします。難聴の度合いもさまざまで、何回も炎症を繰り返しているうちに中耳腔にある耳小骨という骨が少しづつ破壊されてしまいます。この耳小骨は鼓膜の振動を内耳に伝える大切な役割を果たしているので、この骨が破壊されてしまうと外から入った音が内耳に伝わらなくなり重い難聴になることもあります。
治療としては、耳だれが出たときに滅菌生理食塩水での耳洗浄と抗生物質の内服や点耳を行い炎症を抑える治療を行います。しかしこの治療は慢性中耳炎の根本的な治療ではなく、一時的に耳だれを改善させることが目的で鼓膜の穴が閉じるわけではありません。耳だれがあまり出ず、難聴も軽い場合はこのような治療でもよいのですが、頻繁に耳だれを繰り返す時は難聴の進行が早いため、耳だれを止めることと難聴の進行を予防する目的で鼓膜の穴をふさぐ手術を行います。
また、慢性中耳炎のなかでも鼓膜の一部が中耳腔に入り込んで白色の真珠のようなかたまりができる真珠腫性中耳炎では、耳だれや難聴だけでなく周囲の骨を溶かして進行し、めまいや顔面神経麻痺なども起こすことがあるため、手術が必要になります 。
鼻の病気のなかで身近なものとしては、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎があります。
■副鼻腔炎
副鼻腔とは、顔の骨の中に鼻を取り囲むように存在する4つの空洞で、上から順に額の眉毛の裏にある空洞を前頭洞(ぜんとうどう)、両眼の間にある空洞を篩骨洞(しこつどう)、頬の裏の空洞を上顎洞(じょうがくどう)、鼻の奥で頭蓋底近くにある空洞を蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)といい、どの空洞も鼻の中(鼻腔)と通じています。これらの空洞は各々左右に一対ありますが、これらを総称して副鼻腔と呼んでいます。
これらの空洞の粘膜に起きた炎症を副鼻腔炎といい、急性の炎症が起きた場合を急性副鼻腔炎、慢性化したものを慢性副鼻腔炎といいます。炎症が起きると空洞に膿が溜まることもあるので、かつては蓄膿症ともいいました。
■急性副鼻腔炎
急性副鼻腔炎の多くはウイルス感染による風邪のあとに起こる細菌感染が主な原因です。症状は鼻水・鼻づまりなど風邪の症状からはじまり、鼻汁が黄色や黄緑色に変わってきます。さらに頬や眼、鼻の付け根や額が痛んだり、重いような不快な感覚になりますし、歯痛や頭痛として感じられることもあります。
治療は器具を使用して鼻汁を吸引したり、ネブライザー療法といって抗生物質や炎症をとめる薬を鼻腔や副鼻腔に噴霧する治療がよく行われます。細菌感染が原因のため抗生物質や炎症を緩和させる消炎酵素剤の内服や、痛みがひどい時は消炎鎮痛剤も併せて内服します。重症の場合は上顎洞洗浄療法といって上顎洞に溜まった膿を洗い流すこともあります。
■慢性副鼻腔炎
急性副鼻腔炎を繰り返したり、しっかり治らなかった時に炎症が慢性化した状態で、粘稠(ネバネバ)の鼻汁、後鼻漏(こうびろう)(鼻汁がのどに流れる症状)、鼻づまり、臭いがよくわからない、頭が重いなどといった症状が長い間続きます。3ヶ月以上続く場合は慢性副鼻腔炎になっている可能性があります。長期間炎症が続くと、鼻の中に鼻茸(鼻ポリープ)といってブヨブヨに腫れた粘膜のかたまりができることもあり、鼻づまりが非常に強くなります。
治療は急性副鼻腔炎と同様に鼻汁の吸引、ネブライザー療法を行いながら、薬物療法として鼻汁の分泌を抑えたり、免疫能を強くする効果のあるマクロライド系の抗生物質がよく用いられます。この抗生物質を通常服用する量より少なくして1〜3ヶ月間服用する、少量長期投与という治療法によって、軽度から中等度の炎症ならかなりの効果があります。しかし、大きな鼻茸ができてしまっているような高度の炎症では手術が必要です。現在では、内視鏡を使って鼻の中から行う内視鏡下鼻内副鼻腔手術が行われますので、昔の手術に比べると患者さんにかかる侵襲がずいぶん少なくなり、楽に手術が受けられるようになりました。
■アレルギー性鼻炎(スギ・ヒノキ花粉症)
アレルギー性鼻炎のなかでも特に毎年2月から5月にかけて多くの人を悩ますスギ・ヒノキ花粉症は、今や国民的疾患ともいわれるほどに患者数が増え、それに伴いマスコミでも毎年多くの情報が流されるので、花粉症にかかったことのある方はその症状や治療法について、すでにご存知の方が多いと思います。スギ花粉の飛散時期は地域によって異なりますが、三重県では例年2月の中旬頃から始まります。スギ花粉の飛散量は、前年7月の平均気温と日照時間によって予測され、昨年(2006年)はかなり少量でした。今年の予測としては昨年(2006年)の7月の気温は平年並みでしたが、日照時間が2005年7月よりもさらに短く、飛散予測も少なかった昨年よりもさらに少ないとういうことになっています。冷夏ではなかったものの、日照不足だったことが影響する可能性があるようです。
昨年を下回るスギ花粉飛散予測が出されているわけですが、毎年症状がでる人は少しでも花粉が飛べば症状がでますし、スギ花粉症の患者さんの多くはヒノキ花粉にも反応して症状がでます。ここ数年ヒノキがスギに遅れて花粉を大量につける樹齢に達してきており、ヒノキはスギと違って花粉を飛ばす雄花の花芽の観察が難しく、花粉は3月になってから作られるため、前年のうちに花粉飛散傾向を予測するのが困難なようです。したがって早めの対策で万全の備えをするに越した事はありません。花粉症の患者さんはすでにご存知の方も多いと思いますが、「初期療法」といって花粉が飛び始める2週間くらい前の症状が出る前から抗アレルギー剤の服用を開始する治療法が効果的です。症状が悪化する前から薬を飲み続けることで、花粉シーズン中の症状を軽減することができます。また、「導入療法」は症状が出てから始める治療で、強い症状をやわらげるために抗アレルギー剤だけでなく、ステロイド剤の内服や点鼻なども必要になります。さらに「維持療法」と呼ばれる方法は、初期療法や導入療法によって症状が抑えられた状態をシーズン中、保つ治療で症状が軽くなっても花粉が飛散している間は薬の使用を中止せず、やはり抗アレルギー剤や点鼻薬を使います。症状が楽になったからといって、シーズン中に薬をやめると再び症状が悪化してしまいますので、花粉の飛散中は治療を継続することが大切です。現在、ひとくちに抗アレルギー剤といっても多くの種類がありますので、同じ薬を服用したとしても人それぞれの症状の度合いによってよく効く人もいれば、十分に症状が抑えきれない人もいます。また、副作用の眠気などが強くでる人もいますので、専門医の先生とよく相談しながら自分に合った薬を見つけて使用することが大切です 。