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健康アドバイス35
本屋さんに行って面白そうだなと思って買ってきた本が、既に持っていたなんて事はありませんか? さらにそれから1年後、また同じ本を買ってしまいました...買ってから読まずに積んであっただけの本や、あまり面白くなくて途中で読まなくなった本などの場合は誰にでもよくあるケースです。どの様な本に興味を示すかは、年をとってもそれ程大きく変わらないので、1年後にまた同じ本を買ってしまっても別に不思議ではありません。 最近、うちのおばあさん、スーパーに買い物に行って、毎日同じものを買ってきて...昨日買ってきたばかりじゃないのと言うと、私はこれが好きなんだから別にいいじゃないと言って、朝買ってきた納豆をまた夕方も買いに行く。冷蔵庫の中には納豆がズラリ!これって???
日経新聞(H25.6.2)によれば、厚生労働省研究班(代表者・朝田隆筑波大教授)の調査で、65歳以上の高齢者のうち、認知症の人は推計15%で、2012年時点で約462万人に上るとの事です。認知症になる可能性がある軽度認知障害(MCI)の高齢者も約400万人いると推計。65歳以上の4人に1人が認知症とその“予備軍”との事です。認知症は今や老年者の中ではごく一般的な病気となっており、精神科、神経内科の専門医だけではとても対処出来ない状態です。どのような病気においても、基本は日頃からの予防と早期診断・早期治療!日常での、かかりつけ医との連携が大切になってきます。
かかりつけ医は、適切な認知症診療の知識・技術や認知症の人本人とその家族を支える知識と方法を習得するための研修(かかりつけ医認知症対応力向上研修)を受けるよう推進されております。日常生活の軽度の認知機能障害に気づき、認知症の進行をくい止めるために、うちのおじいちゃん、おばあちゃん、ちょっと最近大丈夫かな?と思ったなら、日頃のかかりつけ医に気軽に相談される事をお勧めします。
近年、認知症になっても住み慣れた地域で生活を継続できる社会を目指そうと言われておりますが、なるべく認知症になるのを予防したり遅らせたりする事の方が、本人・家族ともども良い事には間違いないのですから。
認知症の原因については、60%以上がアルツハイマー病、次に多いのが高血圧などの動脈硬化や脳卒中後遺症による血管性認知症、幻視を特徴とするレビー(Lewy)小体型認知症などがあります。
また、治る認知症として正常圧水頭症・慢性硬膜下血腫・甲状腺機能低下症・ビタミン欠乏症・脳内感染症・高血糖・低血糖・電解質異常症・薬物・アルコールなどがあり、これらの治る病気を見落とさないためにも、認知症かなと思ったらなるべく早めに医療機関を受診する事が大切です。
アルツハイマー病の第一症例は1906年にアロイス・アルツハイマー(Alois Alzheimer)博士により発表されました。アルツハイマー病は進行性の神経変性疾患で、無症状の期間を含めると20〜30年かけてゆっくり経過していきます。年をとれば仕方がないと思われてきたボケが、認知症という病気である事が分かり、現在ではその進行をなるべく遅らせる事が出来る治療法や、介護保険等を利用した社会全体としてのケア体制が確立されてきております。認知症にまで至らない早期からの予防や治療を開始することが重要と思われます。
アルツハイマー病の進行をみる方法として、生活機能障害から重症度を評価した
FAST(Functional Assessment Staging)分類があります。
◆FAST分類に基づいたアルツハイマー病の進行過程
(1)正常 | 認知機能低下は認められない。 |
(2)自覚的な 認知機能障害(SCI) | ある言葉を思い出すのが困難。物の置き場所を思い出せない。 |
(3) 軽度認知障害(MCI) | 熟練を要する仕事の場面では、機能低下が同僚によって認められる。 新しい場所に旅行することは困難。 |
(4) 軽度の アルツハイマー病 | 夕食に客を招く段取りをつけたり、家計を管理したり、買物をしたりする程度の仕事でも支障をきたす。 |
(5)中等度の アルツハイマー病 | 介助なしでは適切な洋服を選んで着ることができない。入浴させるときにもなんとか、なだめすかして説得することが必要なこともある。 |
(6)やや高度の アルツハイマー病 | 不適切な着衣。入浴に介助を要する。
入浴を嫌がる。 トイレの水を流せなくなる。失禁。 |
(7) 高度の アルツハイマー病 | 最大約6語に限定された言語機能の低下。
理解しうる語彙はただ1つの単語となる。歩行能力の喪失。 着座能力の喪失。笑う能力の喪失。昏迷および昏睡。 |
従来、物の置き忘れ等は年相応と言われてきましたが、最近では、自覚的な認知機能障害(極めて軽微な認知機能低下)とされ、また、要求された仕事内容がこなせない事が明らかな境界状態を、軽度認知機能障害として早期に対策を行う様になってきました。
軽度認知機能障害とは、認知症の前段階を意識し、「年齢や教育歴を考慮しても説明されない記銘力障害があるが、日常生活はおおむね自立しているため認知症とは言えない状態」を指します。
「認知機能」と「生活機能の自立性」両方とも問題なければ正常、「認知機能」に問題があっても「生活機能の自立性」が保たれていれば軽度認知機能障害(MCI)、両者に問題があれば認知症という事になります。
分 類 | 認知機能 | 生活機能の自立性 |
---|---|---|
正 常 | 問題なし | 問題なし |
軽度認知機能障害(MCI) | 問題あり | 問題なし |
認知症 | 問題あり | 問題あり |
アルツハイマー病に対する根本治療は現在のところありませんが、進行を遅らせる各種薬物療法と、介護保険制度の充実によりもたらされる適切な対応や環境整備を組み合わせる事により早期に治療を開始すれば、住み慣れた環境での在宅生活を長期にわたり継続する事が出来るようになってきました。
同居している親が、物忘れが目立ってきたけど、昼間は元気に畑に行っているので別にいいかと思っていたが、自分が定年退職して昼間一緒にいるようになって初めて、尿失禁や徘徊を繰り返している事に気づく。これは大変だと病院に連れて来た時には、すでに中等度のアルツハイマー病。定年後に、過酷な親の介護が待っていたなんて...
軽度認知機能障害(MCI)や軽度のアルツハイマー病においても、抑うつ症状と無関心(アパシー)といった精神症状は20%以上に認められると言われております。軽度のアルツハイマー病では、基本的な日常生活動作(ADL)は比較的保たれており、この時期から早期に薬物療法を開始する事により、これらの抑うつ症状とアパシーの改善が期待されます。
また、介護者の適切な対応により自立した生活を送る事も十分可能で、早期からデイサービスを利用するなどして日頃の活動性を上げるようにもっていくことが大切です。閉じこもりは、大脳の血流量を低下させる事が分かってきました。引きこもりがちな人は認知症になりやすいというデータもあります。何もしないで日々を漫然(まんぜん)と生きている人ほど、認知症になる可能性が高くなります。
一人で家で留守番できているのでデイサービスはまだ必要ないと思ってみえませんか? 一人で留守番させている事が、認知症の進行を早めているという事に気づいて下さい!
2011年に米国NIA(国立加齢研究所)とAA(アルツハイマー協会)は27年ぶりにアルツハイマー病診断ガイドラインを改訂し、さらに早期の「プレクリニカル アルツハイマー病」という概念を提唱しております。これは、症状がまったくない段階で、画像診断や検査によってアルツハイマー病の初期段階を超早期に診断するというものです。アルツハイマー病発症の10年以上前からアルツハイマー病の病理変化が進行しているといわれており、将来のアルツハイマー病発症予防のための研究Japanese Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative2(J-ADNI2)も開始されるようになりました。これらの研究が進めば、アルツハイマー病の進行を遅らせる現在の治療法に加え、発症を予防するというアルツハイマー病の根本的な治療法の開発が期待されます。