めまいに季節ってあるのでしょうか? それが結構関連があるんです。
6月になると、そろそろ梅雨の季節がやってきますが、めまい患者さんは季節の変わり目にめまいが悪化することがあり、
6月の梅雨時と9月の秋雨時期は要注意なのです。
どちらの時期も梅雨前線や台風などで、気圧が急激に変化することがあり、内耳にある気圧センサーは気圧変化の影響を受けやすく、
このためにめまいが悪化すると考えられています。実は、この「めまいの季節」という表題は、懐かしい山口百恵さんのアルバム「百恵の季節」という中に入っている曲名から頂戴しました。
この歌で使われている「めまい」は少女が恋をする時の心情を表現したもので、これからお話しする本当のめまいとは少しニュアンスが違うのですが。
めまいとは?
「めまい」とは、目が回るようなくらくらした感覚を表現した言葉ですが、人によりその内容は異なっています。広辞苑では「目眩・眩暈:目がまわること、めがくらむこと。げんうん」と定義されています。
では、このようなめまいは何故起きるのでしょうか?
私達の脳は、内耳にある三半規管や耳石器からの信号、目からの視覚情報、手足や首などの筋肉や関節からの知覚情報を受けて、自分の運動や姿勢を認識しています。普段はこうした複雑な感覚情報でうまく制御されていて、普段は意識することなく日常生活ができています。
しかし、内耳の病気や視覚、首や腰の異常、脳の病気などで感覚情報にアンバランスが生じると、「めまい」として感じるのです。
まず、耳の構造を簡単におさらいしておきましょう。耳は、外耳、中耳、内耳に分けられます。
このうち、内耳には音を感じる蝸牛と重力に対する頭の位置や頭の運動(加速度)を感じる耳石器と三半規管があります。ヒトは前庭や三半規管の働きで頭の位置や動きを感じ、目の動きや首・手足の運動を調節することで、姿勢を安定に保ち、スムーズな運動を行うことができています。
ところが、内耳の病気で耳石器や三半規管の働きが障害されると、自分の頭の運動を正確に感じることができなくなり、動いていない筈の自分の体が回ったように感じたり、体が揺れているように感じたりします。これが「めまい」の感覚で、自分の位置や運動を脳が誤って感じてしまう症状なのです。
めまいの種類とその原因
めまいの種類には、大きく分けて回転性めまいと非回転性めまいがあります。
回転性めまいは、自分自身や周囲のものがグルグル回るように感じるもので、
非回転性めまいは、体がフラフラする、グラグラ揺れる動揺性めまい、
フワフワと体が浮いているような、あるいは雲の上を歩いているような浮動性めまい、
更には立ちくらみが含まれています。
めまいの原因はどんな病気が多いのでしょうか?
大きく分けると耳が原因の末梢前庭性めまいと脳が原因の中枢性めまい、
そして耳や脳以外が原因の非前庭性めまいの3つのタイプに分けられます。
その内訳は、60%ほどは耳が原因、10%弱は脳が原因、残りの30%がそれ以外です。
めまいで病院にかかる場合、初診で診察に訪れる診療科は、耳鼻咽喉科、脳神経外科、神経内科
(今は脳神経内科と標榜する病院が増えています)、一般内科、救急などがありますが、耳が原因の病気が多いため、耳鼻咽喉科を受診される方が多いようです。
耳が原因で起こるめまいとその治療方法
良性発作性頭位めまい症(BPPV):
めまいの病気で最も多いのがこの病気で、めまい全体の40%位です。
朝起きる時、洗濯物を干そうと上を向いた時、車を運転中にバックしようと後ろを振り向いた時などのように、急に頭を動かしたりすると生じる回転性めまいが特徴です。めまいの持続時間は数秒から数十秒と短く、同じ動作を繰り返すと次第にめまいが起こらなくなります。原因は内耳の三半規管にある耳石という石が動き出し、重力によって三半規管内を移動することで、中にあるリンパ液が動き出します。そのリンパ液の動きを神経が感知して、脳に信号を送るため、頭は動いていないのに動いているように感じて、めまいが起きるのです。難聴を伴わないのが次のメニエール病との違いです。脱落した石を元の場所に戻す、耳石置換法という頭を動かして、耳石を本来の位置に戻す方法を行うことで、速やかに改善することがあります。女子サッカーなでしこジャパンの澤穂希選手が現役時代に、めまい症状が強くなり、一時戦列を離れていたことは記憶に新しいところです。
メニエール病:
発作時のめまいは回転性で、しばしば吐き気や嘔吐を伴います。
めまい症状と相前後して難聴、耳鳴、耳閉塞感が起こることもあります。
めまいは30分から6時間程続いた後、徐々に治まってきます。
内耳のリンパ水腫(内耳が腫れること)が生じることで、めまいが起こるとされていますが、完全には病因が解明されていません。
めまい発作を不定期に繰り返すことが多く、しばしば睡眠不足、疲労、精神的ストレスが誘因となることがあります。
ストレスなどの原因を解消することや散歩、ジョギング、水泳などの運動を無理のない程度に日頃から行うことも、めまい再発を防止するには有効です。
なお、メニエール病という名前は非常に有名ですが、実際にはめまい患者全体の10%程度しかありません。名前が独り歩きしている感じでしょうか。
前庭神経炎:
突然の激しい回転性めまいが起こり、悪心や嘔吐を伴い、数日続くことが多いです。
難聴や耳鳴はありません。徐々にめまいは改善してゆきますが、
症状が治まるまで1週間程度かかることが多く、入院治療を要することがあります。
3週間程度で回転性めまいはほぼ治まってきますが、動くとふらつきがおこりやすく、
半年たっても半分の方にふらつきが残ります。
ヘルペスウイルスの前庭神経への感染が原因とされており、ステロイドによる治療が有効です。
脳が原因で起こるめまいとその治療方法
脳出血・脳梗塞:
小脳や脳幹に障害が生じると、回転性めまいが起こりやすくなります。
特徴は意識障害、喋ると呂律が回らない、運動障害などを伴います。
頭痛や首の痛みを伴うこともあります。
脳梗塞では、脳血管に詰まった血栓を溶かす血栓溶解療法を行い、
原因となっている血管の詰まりを改善させる治療や、
血液をサラサラにする薬で血栓を出来にくくし、再発を防止する治療が行われます。
椎骨脳底動脈循環不全症:
回転性めまいのことが多く、浮動性めまい、目の前が暗くなるめまいがそれに続きます。
視界がぼやける、気が遠くなる、嘔吐する、上肢のしびれ感などを伴うことが多くあります。
難聴や耳鳴の合併はほとんどありません。
また、首を回したり、伸ばしたり、体を動かしたりすると、めまいが起こることがあります。
治療は、血液の粘性を調整したり、血圧をコントロールしたりする薬物療法が中心となります。
非前庭性めまいの治療方法
前の図にあるように、種々の疾患がめまい症状の背景にあり、その原因疾患に応じた治療が必要です。
ただ、先述した前庭性めまいが体を動かすことで症状が軽快するのと同様、非前庭性めまいの方々も、元々が外にでるのが嫌いだったり、
億劫だったりと運動不足となっていることも多く、可能であれば散歩などから始めて、次第に体を動かすことを心がけてください。
突然めまいが起きたらどうするか?
直ちに救急車を呼ぶということは通常必要ありません。
初めてめまい発作を起こすと、本人も周りの人もパニックになってしまいます。
「命にかかわるような病気ではないか?」など、大きな不安に襲われます。冷静に判断し、
行動できる人はほとんどないでしょう。
しかし、体のしびれや意識障害を伴わないめまいは、命にかかわることはほとんどありません。
いたずらに不安がらず、まずゆっくりと深呼吸をして、なるべく静かな場所で、衣服や体を締め付けているボタンを外し、ベルトを緩めて横になって安静にしましょう。
嘔吐をする場合もありますから、洗面器やタオルを準備してあげてください。もし運転中にめまいが起こったら、すぐに安全な場所に駐車し、めまいが治まるまで運転は控えましょう。
ただし、以下のような症状がみられたら、脳血管障害のめまいかもしれません。
頭を動かさず、上半身をやや高めに保って横になり救急車を呼んでください。
経験したことのないような激しい頭痛、舌がもつれて呂律が回らない、飲食物が飲み込みにくい、手足や口の周りが痺れる、激しい嘔吐を繰り返す、意識が薄れたり意識が無くなったりする、物が二重に見えたり、視野が狭くなったり、視野の一部が暗くなったりする、これらは危険信号となります。
めまいはどこを受診すればよいのでしょう?
まずはかかりつけ医に相談しましょう。
聞こえが悪くなったり、耳鳴がしたり、耳がつまった感じがする時は、耳鼻咽喉科を受診しましょう。
意識が遠のく、物が二重に見える、呂律が回らなくなった、手足の麻痺がある時は脳神経外科や脳神経内科(神経内科)を受診してください。
めまいにならないように心がけること
アルフレッド・ヒッチコック監督によるアメリカ映画「めまい」は、幾何学模様の渦巻きがオープニングで出てきますが、
このような時のめまいは正に回転性めまいの状態でしょう。
こんな状態を経験しなくてもよいように、日頃から心がけるべきことは、まず規則正しい食事をする、睡眠と休養を十分にとる、ストレスと上手に付き合う、運動を適度に行うなどが大切で、普段からの生活習慣を改善するよう心がけましょう。医者から処方された薬をきちんと飲むこと以上に重要なことかもしれません。
ある程度めまいが長期化してくると、場合によっては「寝てては、めまいは治らない」という言葉を肝に銘じましょう。