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健康アドバイス69
子宮や膀胱、直腸など骨盤内にある臓器が、だんだんと下がってきて、腟(ちつ)から体外に脱出した状態のことです。脱出する臓器により、子宮脱(しきゅうだつ)、膀胱瘤(ぼうこうりゅう)、直腸瘤(ちょくちょうりゅう)などに分かれ、これらが単独または同時に出現してきます。
子宮、膀胱、直腸などの臓器は、骨盤底筋(こつばんていきん)という骨盤の底にある筋肉や靭帯(じんたい)により支えられています。しかし、この骨盤底筋がお産を繰り返したり年齢を重ねていくことで緩んでしまうと、臓器を支えられず腟内に下がってきたり、体外に脱出してしまいます。慢性的な咳や便秘を繰り返すこと、長時間の立ち仕事や重い荷物を持つこと、肥満体型の方なども、腹圧がかかりやすく、骨盤臓器脱になりやすいとされます。
初期症状としては、下腹部の違和感や腟内の異物感、入浴時に腟から丸いものがふれるということが多いです。これらの症状は午前中よりも活動した午後にみられやすいです。 症状が進行すると、常に臓器が体外に出た状態となり、尿や便がすっきりと出なくなります。脱出した臓器を押し込みながらでないと、排尿・排便ができなくなることもあります。 さらに、脱出した臓器が下着に擦(す)れて出血したり、痛みから歩行も困難となったり、日常生活に支障をきたします。
骨盤内の臓器が降りてきている可能性があります。
子宮を支えている靭帯が引っ張られて、下腹部の違和感や痛みが生じる場合があります。
腟粘膜に包まれた骨盤内臓器です。トイレやお風呂で気づくことがあります。
座ると何かが身体に入っていく、などの感覚があることも。
下りてきた臓器が内腿(うちもも)に擦れるなどして生じる違和感です。
症状が進行すると戻りにくくなります。
腟粘膜が下着に擦れて、出血や痛みの原因になります。
臓器脱に伴う症状の一つです。
膀胱が下がると、尿道が折れ曲がり、排尿しづらくなります。
排尿しきれずに、残尿があります。
膀胱瘤のため、トイレで排尿できず、排尿困難な状態です。
切迫性尿失禁の状態で、骨盤臓器脱が関係している場合があります。
常におしっこが溜まっている状態で、炎症を起こして膀胱炎になりやすいです。
脱出した直腸に便が残ることで、便が出しづらくなり残便感が出ます。
骨盤内の臓器は重力で下垂するため、朝よりも夕方や夜に症状が強く出ます。
該当するものが多い場合は、骨盤臓器脱の可能性が高いでしょう。産婦人科や泌尿器科を早めに受診してください。
骨盤臓器脱に有効な治療薬はなく、手術をしない保存的治療と、手術をする外科的治療があります。脱出が軽度の場合は、骨盤底筋体操やリングペッサリーを腟内に挿入する対象療法が可能です。症状が重度の場合や、根本的に改善したい場合は手術療法となります。
ゆるんだ骨盤底筋を鍛える運動です。軽度の場合は症状を緩和させる効果があります。
@ お腹に力を入れないように意識しながら、肛門・尿道・膣全体を数秒間締める
A 力を抜いてリラックスする
B 「締める→力を抜く」を、10回程度繰り返す
上記の運動を2〜3ヵ月毎日継続することで、効果が期待できます。
腟の中にリングペッサリーを挿入し、脱出臓器を骨盤内に戻す方法です。患者さんの体格や腟の状態に合わせ、挿入サイズを選びます。人によっては違和感を強く感じる方もいます。また、膣の炎症をおこす場合や、出血やおりものの増加が見られるため、定期受診が必要です。
昔からさまざまな術式が工夫されてきました。腟から子宮を摘出し、膀胱と腟の間の筋膜および直腸と腟を支える筋肉を補強する術式が基本でしたが、30〜40%の方で再発する場合があります。そのため、最近では緩んだ筋膜や靱帯の代わりに人工の素材(メッシュ)を用いて補強する術式が開発され、再発率も少なく注目されています。
・膣式子宮全摘術+前後膣壁形成術
従来法より行われていた基本術式です。子宮を摘出し、腟を縫い縮める手術です。
・経腟メッシュ手術(TVM)
メッシュを腟壁から挿入し、下垂した臓器をハンモック状に支える方法です。
・LSC(腹腔鏡下仙骨膣固定術)
腹部に5mm〜1.5cmほどの小さな穴を4ヶ所あけ、そちらから腹腔鏡を使用して治療します。傷が小さく、術後の回復は比較的スムーズです。臓器が脱出することによる不快感に限らず、排尿・排便困難といった症状の改善にも効果を発揮します。
・RSC(ロボット支援下仙骨膣固定術)
手術支援ロボットを操作して行う最新の術式です。ロボットには、人間の手よりも自由に動くアームや3Dカメラが内蔵されており、より安全で正確な処置を施せるようになりました。
・膣閉鎖術
下垂している腟を縫合して閉鎖する手術です。性機能温存を希望されない高齢者に行う手術になります。
骨盤臓器脱は決して珍しい病気ではありませが、羞恥心(しゅうちしん)から医療機関を受診せず、何年も我慢し、症状が悪化してしまう場合があります。骨盤臓器脱は自然に治る病気ではないため、チェックリストの該当項目が多ければ、早めに近くの産婦人科や泌尿器科で相談して下さい。